25年間、ファンドマネージャーとして莫大な資金を運用してきた波多野聖。小説家に転向してからも、失敗が許されない投資の世界を生き抜いてきた「究極のリアリスト」として、現実から起こり得る近未来の可能性を提示し、多くの物語を紡いできた。
そんな波多野が最新作で描いたのは明智光秀だ。本能寺の変で織田信長を討った「裏切り者」のイメージがつきまとう光秀だが、実はビジネスパーソンとして非常に優れた人物であったという。
しかも光秀は、信長と将軍足利義昭の2人に仕えていた。現代に置き換えれば、財閥系企業の総務部長でありながら、スタートアップの取締役としても働くというような二重職籍で活躍していた人物だ。
ファンドマネージャーという自身の経験から波多野は光秀に一流ビジネスパーソンとしての超越した能力を見て取った。誰もが生き抜くことや目の前の課題解決に必死な混沌のなかにあって、自身を俯瞰し、時代を見通し、異例の超スピード出世を叶えた完璧な仕事人──。そんな光秀から、我々がいま学ぶべき出世のエッセンスとは何か?
まず、光秀が生きた戦国時代は、下克上の世だった。既存の概念が崩れ、混乱していた時代だ。それと同様、波多野は「人類史上からみれば、現代は完璧に戦国そのものだ」という。
「我々はいま、あらゆる分野で対立状態に置かれていると言えるでしょう。人類VS気候変動やテクノロジー、宗教や人種の対立、さらには我々が普遍的だと思い込んでいた民主主義や自由という概念までもが崩壊の危機にあるように思える。戦国時代と多くの共通点があるのです。つまり、武将として成功するのも、現代にビジネスで成功するのも、必要なエッセンスはまったく同じと言えるでしょう」