モンブランが選定する「Mark Maker」は、高い感性とオープンマインドを備え、自らの道を切り拓き、揺るぎない足跡を刻んだ人、または刻もうとしている人のことだ。「30 UNDER 30 JAPAN 2019」では、アート、ビジネス、スポーツなど、幅広い分野で世界を舞台に活躍する30歳未満の30人をForbes JAPANが選出。「各分野で国境や世代を超えて行動力と発想力を発信するひと」というコンセプトでMark Makerとも共鳴するこの企画において、モンブランは公式スポンサーとなった。このMark Makerと30 UNDER 30受賞者が、「目標達成のために必要なもの」をテーマに語り合うトークイベントが、モンブラン銀座本店で開催された。
30 UNDER 30 JAPAN 2019では、モンブランが公式スポンサーとなって昨年9月に公式イベント「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 Meet-up 2019」を開催。今回、そのスピンオフ企画として、Mark Makerと30 UNDER 30受賞者によるトークイベントが行われた。
Mark Makerとしてhey代表取締役社長でエンジェル投資家でもある佐藤裕介が、30 UNDER 30 JAPAN 2019受賞者の中からは、「b-monster」創業者の塚田眞琴、「ビビッドガーデン」代表取締役社長 秋元里奈が登壇。社会に大きなうねりを起こし、時代を変えようとする3人は、目標達成のために何を考え、どのように行動を起こしているのか。会場となったモンブラン銀座本店には多くの来場者が訪れ、3人の言葉に耳を傾けた。
30 UNDER 30受賞者が考える「今後3年で成し遂げたいこと」トークセッションは、30 UNDER 30 JAPAN受賞者の2人が、「今後3年で成し遂げたいこと」を挙げるところからスタート。
塚田眞琴は、最先端の格闘系フィットネス「暗闇ボクシング」を手掛ける「b-monster」創業者で、30 UNDER 30 JAPANのコンシューマー・ビジネス部門を受賞した。彼女は「NYに逆輸入」と書いたパネルを掲げた。
b-monsterは、塚田がニューヨーク旅行中に現地で体験した「シャドウボックス」に触発され立ち上げたフィットネスだ。塚田は「日本で進化させてきた自負もあります。3年以内にニューヨークに進出して、どれだけ成長できたのかチャレンジしたい」と語った。
塚田眞琴30 UNDER 30 JAPANでフード部門を受賞した秋元里奈は、安全でおいしい農畜水産物を消費者が直接購入できるプラットフォーム「食べチョク」を手掛けるビビッドガーデンを創業した。秋元が3年以内に実現したい目標として掲げたのは、「生産者のこだわりが正当に評価される世界」だ。
実家が小規模な農家で、中学の時に廃業しているという経験があった秋元。「小さい規模の農家でも、そのこだわりが利益としてかえってくる、評価される世界を3年で作りたい」と説明した。
秋元里奈二人の目標を、「めちゃくちゃ立派だと思う」と評した佐藤。塚田の目標については「リアルな目標であり、かつ一緒に挑む仲間が盛り上がれる。社外で応援している人にもわかりやすくて協力しやすい」と分析。秋元の目標も、「どうなりたいかが具体化されているから、そのために何をすればいいかがわかりやすい。周囲の人たちにとっても、何が助けになるのかが見えやすい」と話した。
目標を設定するために大切にしていることは?二人の目標は、周囲を巻き込むことができる具体性と求心力を備えていると言う点で共通していると言える。目標を立てる上で、どんなことに気をつけているのだろうか。
「言葉に固執しすぎないことを意識している」と答えたのは秋元だ。今の目標は、起業当初の目標「色鮮やかな農地をもう一度」から、言い回しを変えただけで本質は変わっていないという。しかし、「本質的に言いたいことがあっても、言葉にしたときに他人に伝わるかは別問題」と、目標の表現の仕方に固執しすぎずに、柔軟に変化させていくことの大切さを強調する。
塚田は「目標自体はざっくりとしていてもいいので、自分の現在地を見誤らないことを大事にしている」という。「自分を客観視して、ニューヨークへ逆輸入するためには何が足りないのかを具体的に考えることが大事だと思います。そこをわかっていないと、無駄な努力をしてしまったり、逆方向に行ってしまったり、目標から遠ざかってしまいます」。
目標には「道しるべ」と「仲間を集める磁石」という2つの機能がある二人の言葉を受けて佐藤は、「目標設定には、道しるべを示すコンパスという根本的な機能と、それを一緒に実現する仲間を集める磁石としての機能の2つがあると思う」と語る。
佐藤裕介「コンパスの役割ですが、北に行くという大きな方針は決めつつも、本当の正解は北北西だったということはよくあります。不確実性が高い世の中において、3年後や5年後の目標を決めることにも大きな不確実性が孕むからです。チームで目標を共有する場合にも、修正を恐れないことに気をつけています」。
「磁石としての役割とは、その目標によってチームのテンションを上げること。heyでは、『2025年までに自社サービスによって“X兆円”の流通総額を生み出す』というかたちで目標設定をしていますが、そのままの表現では味気ないです。だから社内では、『日本の国民総支出の“Y%”を僕らのサービスが取ろう』という言い方にしていて、受け取られ方がまったく違います。2人の目標も、テンションが上がる目標設定の表現であり、磁石として効いています」。
具体的な目標設定からのアクション目標設定後のアクションについても話が及んだ。塚田はニューヨーク逆輸入に向け、アメリカの不動産業者やマーケターとコンタクトを取り、来日してb-monsterを体験してもらった。「これはフィットネスではなくてファッションだね、と言われたのがすごく嬉しくて。これならニューヨークでも同じようにムーブメントを起こせるという手応えがありました」。
秋元は「食べチョク」のプラットフォームがまさに具体的なアクションだと語る。生産者が直接販売できるので、小規模の家族経営の農家が、自分のこだわりを伝えてファンを作っていくことができる。
「まだ小さなサービスですが、成功事例が少しずつ出てきていて、野菜だけで月に50万円を売り上げたり、利益が2倍になったりという小規模農家も出てきています。プラットフォームを大きくしていくことで、より多くの農家の方々が正当に評価される世界を作っていきたいなと思います」。
イベントはモンブラン銀座本店の2Fで開催された。写真は1Fの販売スペース目標達成に向けて、失敗をいかに軌道修正していくか眩しいようなサクセスストーリーを聞いていると、つい成功にばかり目が行く。しかし、成功に至るまでには失敗もあった。失敗と、そこからどうやって軌道修正を行ったのか、3人それぞれが自身の経験を語った。
秋元は、創業から1年間、社員が一人も採用できず、自分一人だったことを振り返る。「今思い返すと空回りしていて、事業の魅力がうまく伝えられませんでした。それでも、佐藤(裕介)さんや投資家の方と話す中で、少しずつ自分のやりたいことが言語化され、それをいろんな人に話せるようになったことで、事業に賛同して入社してくれる人が増えました」
順風満帆に見える塚田にも、失敗があった。b-monsterを創業直後、接客に対する好ましくない反応がSNSに書き込まれた。「当時、スタッフにニューヨーカーみたいなクールな接客をして欲しいと言っていたのですが、『クール』の部分だけを抜き取った『冷たい』接客になっていたのです。そのとき、想いを伝えることが抜けていることに気づきました。クールの意図をしっかりと伝えるようにすることで、接客も大きく変わって、今は以前のような評判もなくなりました」。
イベント後に開催されたネットワーキング・パーティの模様。登壇した3人と参加者が、シャンパンや軽食を片手に交流した若い起業家の目標となっている佐藤でさえ、ここに至るまでには失敗を経験してきたという。佐藤が挙げたのは、ニューヨーク進出の失敗だ。5年で2桁億円の赤字を出し、撤退することになった。当時の失敗を、目標設定におけるコンパスと磁石のたとえで分析する。
「磁石の話で言えば、塚田さんのようなストーリーが僕らのニューヨーク進出にはなかった。日本で調子が良くて、アメリカでも成功したらカッコいいよね、くらいのノリで始めてしまった。だから共感を生まなかったし、協力しようと思ってくださる人も増えなかった。そういう意味において、磁力が弱かった。コンパスの話で言えば、おおまかな方向としてニューヨークを向いていただけで、何度も方向修正を繰り返して、何がなんでもニューヨークで成功するという根拠も想いもなかったのです」。
しかし、佐藤は今、アメリカ再進出に挑んでいる。「今回は、自分たちなりにアメリカ再挑戦するストーリーがあって、ここでなぜ勝たなければいけないのか、そのためにどのくらい労力や我慢・覚悟をしなければいけないのかという根拠を持った状態で、リトライしています。そして今回はうまくいっている。やはり、根本の部分があるかどうかはすごく大事なのだと思います」。
今回のトークセッションでは、社会に大きなうねりを起こし、時代を変えようとする3人が、指針となり求心力となる目標を設定して、失敗にも臆することなくチャレンジを続けている姿を垣間見ることができた。参加者の中には、起業を目指している方、スタートアップ企業に関わっている方もいたが、3人の言葉は、これから大きな目標を立ててチャレンジをしようとしている人にとっての大きな指針となるはずだ。