デザイナーは「デザイナー以外の言葉」で語れ
アメリカ・ラスベガスではCESが開催されたばかり。メーカーにとっては新商品や新たな技術、ビジョンを示す重要な場だが、ウルフ氏は「そこで発表される商品や技術には個人的に興味がない」と言ってはばからない。
「CESで表現されているのは既に実現可能なことであって、デザイナーにとっては“過去”のもの。私たちはその先へ行かなければなりません。もちろん、年に1、2度リサーチを行い、トレンドをキャッチしていますが、今起きている変化を超えたまったく新しいものやインスパイアされるものを、私たちはいつも探しています」
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デザインチームは、家具見本市のミラノサローネなど異なる領域の事例からヒントを得たり、「インサイト・イノベーション」というフレームワークでまだ顕在化していない顧客ニーズを明らかにしたり、さまざまな角度からリサーチをしながら、先を見据えた課題解決を追求しているという。
昨今、デザイン思考をベースにしたビジネス創出やプロダクト開発に期待が寄せられているが、HPのように奏功している企業もあれば、そうでない企業も多々あるだろう。デザインが解を導く領域が広がっていくなか、当然、そのプロセスにはデザインに知見のない専門外のステークホルダーが介在し、意思決定にかかわる場面も増えてきた。
ウルフ氏はこんな言葉で、ビジネスの現場においてデザイナーが取るべき行動を示す。
「私はチームメンバーに『他の言語で話しなさい(Speak in another tongue.)』と伝えています。生まれながらのデザイナーは自由に物事を考えて行動するかもしれないけど、それをそのままの言葉で伝えるのではなく、事業責任者やエンジニア、プログラムマネージャー……財務担当者に至るまで、彼ら(他分野)の言葉で語れるようになることが重要です」
ユーザーのあらゆる声に耳を傾け、ニーズの“兆し”を掴む。さまざまな専門性と文化的背景、価値観を持った人がチームとして集まり、他部門や外部パートナーと関わりながら複数のプロジェクトを進めていく。アイデアを形にし、プロトタイピングし、テストを繰り返してアップデートしていく。有機的に変わりつづける“カオス”のなかで、信じているのはデザインの可能性だ。
「私たちはいつもチームを作る際、カルチャーを作ります。そのカルチャーとは、デザイナーがデザイナーとして、付加価値を提供できているか、課題解決しているかどうか、と自らに問いかけつづけることなのです」
最後に、ウルフ氏へこんな質問を投げかけてみた。「未来のPC」のあるべき姿はどうなるのか、と。彼は「競合もいるから、あまり詳しくは語れないけど……」と断りを入れながらも、こう語った。
「PCそのものがどうこうというより、外部環境の変化は無視できません。その代表例が5Gでしょう。5Gによって、より“つながり”が強化され、より持ち運べるもの(モビリティ)となり、よりフレキシブルになっていく。
すると『スクリーンで何ができるのか』がますます重要なものとなってきます。キーボードやトラックパッドなどで操作されていたPCが、タッチパネルによる操作が当たり前になったように、これからPCでできることが増えていく。これまでセグメント外だったユーザーもPCを使うようになることで、PCの使い道はより多様になっていく。そうやって、どんどん“人”に影響され、PCは進化していくのではないでしょうか」