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2020.01.17

HPのパソコンがヒットする理由──グローバル責任者が語った、デザインの黄金比

HPのパーソナルシステムズ事業のデザイン部門でグローバル責任者を務めるステイシー・ウルフ


多様なチームをまとめる「黄金比」

HPは2014年頃、PCのデザイン向上を目指し、それまで商品ごとに分かれていたデザイナーを事業部直下の組織にまとめ、1つのデザインチームを編成した。その統括を任されたのがウルフ氏だ。

その組織作りの秘訣について、ウルフ氏は「もうちょっとコーヒーが必要ですね」と笑いながら振り返る。「私たちのチームには8カ国もの異なる母国語を使うメンバーがいます。デザイナー、エンジニア、グラフィックアーティストにイラストレーター、サウンドエンジニア、コンピュータグラフィックス……そして、人の振る舞いや特性に特化したヒューマンファクターを担当する人もいます。実にさまざまな国の文化や専門領域、才能を持った人がいるなかで、多様な考え方を一つの方向性にまとめていくのは難しいことです。けれどもだからこそ、イノベーションを生むことができるのです」


Gettyimages

ウルフ氏がチームをとりまとめるために行なったのは、デザインチーム全体の共通理念を設定することだった。「メンバーはもちろん、HPには極めて多様なソリューションやプロダクトがあります。ですからチーム全体に“傘”をさすように、一貫した理念が重要だと考えました」

その理念とは、「PHI(ファイ)」。「Progressive(プログレッシブ:革新的)」「Harmonious(ハーモニアス:調和)」「Iconic(アイコニック:象徴的)」3つの頭文字をとった言葉で、ギリシャ文字の「黄金比(ファイ:φ)」を表す。

「革新的な姿勢は、2016年からプレミアムPCに採用した新ロゴの“前傾姿勢”にも表れています。オーケストラに例えるなら、それぞれが異なる楽器で一つの楽曲を演奏し、素晴らしいハーモニーを生み出す。それこそが私たちが目指す『調和』です。そして、単なる一過性のものでない、年代を経てもアイコンとしてユニークな存在感を持ちつづける。移り変わりの激しいマーケットの中で、何世代も一貫性を保ちながら、新たな要素を加えてアップデートしていく。それが、記憶に残るデザインとなるのです」

その「黄金比」が体現されているプロダクトの一つが、前述の「HP ENVY x360 13 Wood Edition」だ。パームレストとタッチパッド部分にウォールナット材を採用したのには、SDGsも重視したという。

「企業としてはもちろん、デザインチームとしてもずいぶん前からサスティナビリティに注力してきました。素材を決める際、なるべく廃棄されないよう、最終的にリサイクルやリユースに回し、責任ある形で活用できるかどうかというのが重要です。私たちはデザインプロセスの初期段階からチームにサプライチェーンを担当するメンバーを入れ、トレーサビリティを担保しながら安定的に調達できる素材を選択しています。ウォールナット材はその点においても優れた素材ですし、何より木目や色合いが商品によって違う。使っていて愛着の持てるPCとなるのです」
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文=大矢幸世 写真=小田駿一

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