新国立競技場で第1号ゴールを決めた男。藤本憲明を支え続けたものとは

Masashi Hara / Getty Images


2016シーズンからJ3へ参入する鹿児島は、得点源となるフォワードを探していた。期待に応えるように藤本は15ゴールをあげて2016シーズンの得点王、2017シーズンも24ゴールを量産して2年連続でJ3の得点王をゲット。J2の大分トリニータからのオファーを勝ち取った。

迎えたトリニータでの2018シーズン。初めて挑むJ2の戦いに苦しめられながらも、夏場以降にフィットした藤本は最終的にはチームトップタイの12ゴールをマーク。6年ぶりにJ1へ挑むトリニータの中心として、引き続き「10番」を託されて新たな戦いを待ち焦がれていた。

県立カシマサッカースタジアムで行われた2019シーズンの開幕戦。29歳にして初めてJ1の舞台に立った藤本は、前半18分に先制ゴールを、後半24分には勝ち越しゴールをゲット。トリニータを勝利に導いた大活躍は、別の意味でも注目を集めた。

開幕戦の歴史をさかのぼれば、藤本はトリニータのエースとして2018シーズンの栃木SC戦で、鹿児島のエースとしても2017シーズンの藤枝MYFC戦でもゴールを決めていた。つまり、J3からJ2、そしてJ1と異なるカテゴリーの開幕戦で、3年連続でゴールを決めた稀有な存在となった。

さらには佐川印刷京都の一員として出場した、2014シーズンのFCマルヤス岡崎とのJFL開幕戦でもゴールを決めている。おそらくはこれからも破られない記録の持ち主になった藤本は「やっとここまで来た。何とかなる、と思いながらあきらめずにやってきた」と神妙な表情を浮かべていた。

そして、第6節までに6ゴールをあげて、J1の得点ランキングのトップに立つ活躍ぶりに注目したヴィッセルが、夏の移籍市場へ向けてオファーを出した。5年前はJリーガーではなく、アマチュア選手で雌伏していた苦労人が、元スペイン代表の至宝アンドレス・イニエスタのパスを受けることになった。

古巣のチームへの感謝の言葉

この痛快なサクセスストーリーを成就させた藤本の真摯な姿勢は、昔もいまも何ら変わらない。無駄走りになることを厭わず、あきらめずに何度も相手ゴール前へ顔を出す。愚直にも映るプレースタイルを見ながら、元日本代表監督の岡田武史氏の言葉を思い出さずにはいられなかった。岡田は、横浜F・マリノスを連覇に導いた2004シーズンに、独自の論法で「運」を次のように定義している。

「人間は誰にでも、目の前に運が流れている。それをつかみ損ねたくないから、例えばひとつのダッシュを、ひとつの全力プレーを絶対に怠ってはいけない」

ゴールに結びつく確率は決して高くはない。それでもゴールできる可能性がほんのちょっとでもあるのならば、1本のダッシュを含めて絶対に労は惜しまない。明るくひょうきんなキャラクターで覆い隠されがちだが、その藤本の愚直な姿勢がゴールを呼び込み、究極のキャリアアップをも成就させた。

「全部ですね。レベルアップ、ステップアップしてきたところのすべてがターニングポイントで、自分にとってもすごく大事なことなので。これだ、というところはありません。自分のレベルアップのために努力してきた日々が、天皇杯優勝という結果につながったと思っているので」
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文=藤江直人

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