「全部いりません!」初診の日、全摘を確認|乳がんという「転機」 #5

北風祐子さん


「見たいときは見たっていいんです」


例の診察前アンケートで8以上に丸を付けた人は、相談支援センターへ行かねばならない。専門の相談員がいて、いろいろな悩みについて相談に乗ってくれる。初診を終えた今は、「4」くらいの気分に戻ったが、まあ行ってみてください、と言われたので従うことにした。

カウンセラーは、優しかった。がんかもしれないとなったら、通常は誰でも「9」くらいつける。ぐちゃぐちゃな精神状態になって当然、と、私の状態を完全肯定してくれた。

先生がおっしゃっていたようにインターネットを見過ぎたせいかもしれない、と言うと、「先生はご自身の診療方針に自信をもっているから、そういうことを言うんです。でも、見るなと言われたって見ちゃいますよね。見たいときは見たっていいんです」と笑顔でアドバイスしてくれた。先生は神様じゃない、というスタンスのカウンセラーが同じ病院内にいる状態は、健全だ。

相談支援センターでは、体のことだけでなく、漠然とした不安、職場や再就職等の雇用関連の悩み、医療費や生活費のこと、退院後の生活など心配ごと全般を無料で相談できる。ラウンジには、「生活の工夫カード」がたくさん置いてあった。患者さんが感じる不便さの例、それらが起こる原因、改善のための生活の工夫が、わかりやすくコンパクトにまとめてある。

その日は、【乳房切除後の下着(ブラジャーをつけると痛い、合うブラジャーがない)】、【人目が気になり温泉に行けない】、【洗濯(腕があがらないため洗濯物が干せない)】、【掃除】、【買い物】、【炊事】、【親ががんになったとき、子どもにどのように伝え、支えるか】といったあたりを持ち帰った。特に温泉愛好家ではなかったが、「行けない」と言われると寂しかった。選んだカードは、いずれもずっと先の心配事ではなく、「たらればで今後を少しだけ予測していく」ために必要な内容だ。

今の精神状態に1から10のスコアを付けてみる、というのは、冷静になって自分を見つめ直す意味でも効果的だったので、その後の生活でも折に触れて使ってみた。娘が受験で不合格だったときの落ち込み度合い、部下の悩み事の度合い、自分の怒りの度合い……。

低いスコアだと、なんだそれほどでもないや、とラクになり、9だとまだ望みはある、となり、10だと一大事だから迷わず全部やめてしまおう、となる。
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文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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乳がんという「転機」

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