ビジネス

2020.01.16

「成長」と「成功」──どちらにフォーカスするのが幸せか

成長か、成功か

「成長」と「成功」。こうして並べてみると、何となく似ている言葉ではある。

しかし、それぞれが示すものは大きく異なる。「成長」は、自身の努力によって確実に得られる果実だと僕は思っている。一方「成功」は、自分の頑張りによって100%約束されるものではない。その違いを理解するカギは、「自分がすべてをコントロールできるか、否か」だ。

今回は、僕がこれまでの人生において、そのことを最も真剣に考えたときの話をしてみたい。「成長」と「成功」の違いについて、よくわかっていただけるのではないかと思う。

入社したばかりの世界的大企業からベンチャーへの転身

僕がマイクロソフトで働いていた頃のことだ。その前にいた会社の上司から、スタートアップのメンバーにならないかと誘われた。新しい会社を立ち上げるというのだ。

その話を持ちかけられたとき、僕は悩んだ。実はその頃、マイクロソフトに入社したばかりだったからだ。せっかく転職を叶えたのに、その職場をすぐに捨てるのか。採用してくれた会社にも申し訳ないではないか…。そんな僕に、それはもうさまざまな誘い文句が飛んできた。その中には、「キャピタルゲイン(株式公開の際の上場益)でマンション買えるかもよ?」なんていうのもあった。

しかし、当時外資系企業のエンジニアだった僕にとって最も魅力的で、心を決めるきっかけになったのはこの言葉だった。

「スクラッチからコードを書けるよ」

これは、「仕様策定含め、ゼロからプログラミングができるよ」という意味である。(エンジニア以外の人にとっては「ゼロから事業作れるよ」が比較的近いと思う)。

外資系企業のエンジニアに共通している悩みは、仕事が「ローカリゼーション(現地化)」しかないということだ。外資系IT企業の場合、製品の仕様は海外の本社で決められ、その英語版がまず出来上がる。僕らは、それを日本国内の市場に合うように修正し、翻訳し、それに伴うデバッグをする。

かつての僕のような外資系企業の日本法人のエンジニアは、製品をゼロから設計することはできないのだ。だから、「自分でも仕様策定をしたい」「一からコードを書いてみたい」という思いが自然と湧いてくる。それらはエンジニアとしての自信のため、キャリアのため、そして喜びのために必要なことだった。

そして僕は入ったばかりのマイクロソフトを辞め、ベンチャー企業設立への参加を決めた。それからほどなくして、そのベンチャーへの投資を検討している投資家との面談があった。そこでこう聞かれた。

「せっかくマイクロソフトに入ったのに。いいんですか?」

僕は、キャピタルゲインなどの魅力は確かにあるが、強い期待はしていないこと、スタートアップは概ね3年間で勝敗が決するだろうという自身の見通しを話したあと、こう続けた。

「これからの3年間、僕はスタートアップで死に物狂いで働く方が自分が成長できると思っています。それは、自分が頑張りさえすれば確約されていますから」

投資家に対する回答としてはふさわしくなかったかもしれないが、これが僕の偽らざる思いだった。
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文=岩田真一

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