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2020.01.15

リスクが恐ろしいからこそ、ハイリスク・ハイリターンを選ぶ投資哲学

「リスクが恐ろしいからこそ、あえてハイリスク・ハイリターンのオプションを購入する」。これが、一風変わった上場投資信託(ETF)を運用するナンシー・デイヴィスの投資哲学だ。

彼女のヘッジファンド、クアドラティック・キャピタル・マネジメントが開発した「クアドラティック・インタレスト・レート・ボラティリティ&インフレーション・ヘッジ・ETF」の特徴は、米国物価連動債と長短金利の格差拡大に賭けるコールオプション(商品を買う権利)を組み合わせたポートフォリオ。高度な数学的理論を基に設計され、景気が過熱してから株価や不動産価格の暴落が起きた場合にも、利益が上がるようになっている。

この難解な金融商品は、「金融リスクをヘッジしたい」と願う投資家に安心感を与える一方で、デイヴィスにとってはまさに危険な賭けだ。

彼女は学生の頃から稼いだ金を証券口座につぎ込み、売却益を得た。31歳までゴールドマン・サックスやヘッジファンドに勤務し、退職して3年間2人の子育てに専念した。

13年に自己資金を元手に設立した同社は、資産残高が4億ドルを超えたこともあったが、18年にコーウェン&カンパニーからパートナーシップを解消されてしまう。それをきっかけに、会社の改革に着手し、新しい金融商品の開発に至った。

同社の株式の60%を握る彼女は、ETFが成功すれば大金持ちだが、失敗すれば会社も苦境に立たされる。これまでにこの商品が投資家から集めたのは5800万ドル(約63億円)ほどで、今年の夏にはコールオプションの満期が来る。株式や債券がすぐに暴落しないと困ったことになる。

「起こりそうもないことに賭けて、大儲けする」彼女のような根っからのトレーダーはハイリスク・ハイリターンの投資をやめられないようだ。


Nancy Davis◎クアドラティック・キャピタル・マネジメントの創業者兼CIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)。ジョージ・ワシントン大学卒業後、ゴールドマン・サックス、アライアンス・バーンスタインなどで長年デリバティブ取引を担当し、13年に会社を設立。

文=ウィリアム・ボールドウィン 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=岡本冨士子

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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