寄生虫は誰か? 「パラサイト」監督が語る越えられない格差

ポン・ジュノ



パラサイト 半地下の家族 2020年1月10日(金)全国ロードショー。(c) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

映画の副題にもある『半地下』の理由がここにある。

「半地下は半地上でもある。うまくいけば地上に上がれるが、失敗すれば真っ逆さまに落ちてしまう。中産階級とも言うように、中間にひっかかっているので非常に不安定で、この先どうなるかわからないという恐怖を抱いています」

貧しい一家が近づきすぎたとき、金持ち家族の社長は「度(線)を越すな」というセリフをよく言う。

「金持ちには自分たちが望む線があり、そこから先に他の人は入ってきてほしくない。その線が世界の断絶であり、越えられない『度』だ。度を越すと、悲劇的な事件が起きてしまうのです」

ポン・ジュノ監督が貧富の差をテーマに描くのは初めてではない。貧富の格差は昔からあった問題だ。『パラサイト』が描く世界は、昔と何が違うのだろうか。

「韓国では『一代で家を成す』という言葉があるように、昔は自分がなんとか頑張って成功すれば階段をのぼって上に上がれるという期待がありました。階段や梯子は上昇の象徴でした。いまはその階段や梯子が崩壊してしまったように感じます」

2013年公開のSF映画『スノーピアサー』では、極寒になった地球で、生き残った人々が永久機関の列車の中で暮らしているという設定で、最後尾で暮らす貧困層が、前方車両に住む支配層の金持ちに反旗をひるがえす。

「貧富の差が広がっていることは怖いことです。しかし、この状況はよくならないと思うことのほうが、それ以上にもっと怖くて悲しい気がします。「パラサイト」では無理やり希望を見せるよりも、悲しくて残念なありのままの姿を伝えようとしました」

映画を見終わると複雑な感情が押し寄せる。世界のありのままの姿にワンワールドの住民たちが共鳴している。


Bong Joon-Ho◎韓国の映画監督。1969年生まれ。延世大学校社会学科卒業後、韓国映画アカデミーで学ぶ。劇場長編映画2作目の『殺人の追憶』で韓国動員数520万人を記録、『グエルムル─漢江の怪物─』は同1240万人を超えるメガヒットに。長編7作目の『パラサイト 半地下の家族』は、韓国映画初のカンヌ国際映画祭最高賞、パルム・ドールを受賞した。

文=成相通子 写真=帆足宗弘

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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