会社員、イタリア家庭料理の道をゆく


「たいしたコツなんてないけれど」と謙遜しながら1から説明し始めたマリアだけれど、それは誰もが知るリゾットの揺るぎないつくり方とは、初っ端からして違う。

例えば、通常は、玉ねぎのみじん切りを深鍋で炒めたら、同じ鍋にこのまま米を加えるのだが、彼女の場合は、玉ねぎは別のフライパンで軽く炒めた後、さらにブロード(ブイヨン)を加えてネチョネチョになるまで煮詰めておき、深鍋でリゾットにスープを足していく途中で加えるのだ。

これがレバーと野菜のリゾットであれば、レバーはレバーで先にフライパンで火を通し、野菜は野菜で、各々野菜ごとに別々のフライパンで火を通しておいたものを、同じく深鍋に途中で投入する。

つまり、どんな具材のリゾットをつくるにせよ、1つ1つの食材ごとに火が通る時間は異なるから、それぞれの食材がいちばん美味しい状態になるまで個別に仕上げておいて、それらをリゾットが炊き上がる半分くらいの時点で深鍋に投入するのだ。

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鶏レバーと野菜のリゾット

すると、100%持ち味を引き出された食材たちが、米と深鍋の中で一緒になり、残りの時間でさらに持ち味を引き出し合うという、まさに100%同士の競演と融合だ。そりゃ、10カ月の子供がバクバク食べるわけだ。

地味だけどハッとさせられるこだわりは他にもある。具材を炒めた後の空のフライパンにも味が染み込んでいるというマリアは、ブロードを入れてフライパンを濯ぐようにひと煮立ちさせ、これすらもリゾットの鍋に加えるのだという。

「これ、リゾット以外でも使えるわよ。そうそう、昨日のズッキーニと海老のパスタもこの方法よ」

具材として海老を炒めた場合は、海老を取り出した後のフライパンで大さじ1杯くらいの小麦粉を炒めてからブロードを足せば、「海老味」のベシャメルソース状のものができ上がる。これをリゾットの仕上げに加えれば、ぐんとクリーミーになる。牛乳や生クリームなど一切使っていないから、素材の持ち味が邪魔されることはないという。

なるほど。昨日のパスタも、ただの芝海老からなぜこんなに出汁が出るのか不思議なほど海老の味が効いていたけれど、その謎までも一気に解明された。

特別な材料を使うわけでも、高度な技を使うわけでもない。どこにでもある食材を使いながら、でもほんのちょっと手間を工夫するだけで、100と100を足して500にしてしまう、それはまるで化学反応のような料理なのだ。

文=山中律子

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