つまり、どちらの新聞を購読するにしても、リビュージャーナル紙の印刷と配達に乗っかる。さらには、リビュージャーナル紙を購読する人には、サン紙が無料で挟みこまれてくるというほどの「呉越同舟」ぶりだ。読者の視点からすると、この2紙は一体に見えてしまう。
ところが時は流れ、いまは、新聞は印刷されるよりも前にインターネットで読まれてしまい、広告収入に大きく依存するビジネスモデルに変化が現れてきたため、サン紙は、紙面に載せる情報とウェブサイトだけに載せる情報とを選り分けようになった。リビュージャーナル紙によれば、サン紙が紙面に載せる情報は、他紙からの引用ばかりで、オリジナルな記事が1日ほんの数本しかない状態だという。
そこで、リビュージャーナル紙は、サン紙の質の低下を憂い、呉越同舟の関係である同紙の読者を、紙の誌面から離れさせる妨害行為だとして非難。これは契約違反に当たるとして、契約解除を求める事態になったのだ。
なるほど、リビュージャーナル紙の読者を紙の紙面から離してしまえば、ウェブでの競争に規模は関係ないので、サン紙にとっては賢い戦術となる。
一方、サン紙は、リビュージャーナル紙が、日本へのカジノ進出も検討しているラスベガス・サンズのオーナー、シェルダン・アデルソンのファミリーによる資産管理会社によって所有されていることから、アデルソン一族への攻撃をしないようにしているのは、ジャーナリズム精神にもとると厳しく批判している。
ラスベガス・サンズのオーナー シェルダン・アデルソン(Photo by Shahar Azran / Getty Images)
採算を度外視して新聞事業を継続
今回の裁判は、契約の有効性、解除の実効性の解釈をめぐる州裁判から始まったが、契約内容解釈の裁判では旗色が悪かったことから、サン紙が、連邦裁判所に、独占禁止法違反だとして訴える形へと発展した。
州の地方裁判所の裁判長は、独占禁止法事案について連邦裁判所が先に判決を出すべきだとして、州の地方裁判所での審議を一時延期した。すると、翌日に出たサン紙の見出しは、「州地裁が自社の主張を受け入れた」とし、リビュージャーナル紙のほうは、「州地裁は当然にして裁判続行を決断した」という見出しで、2紙はそれぞれ自分たちが優位だと書いている。それで、それが同じ新聞の束になってやってくるのだから、なんとも不思議な感じだ。
もし、サン紙が勝訴すると、リビュージャーナル紙はなんと2040年まで、サン紙の印刷、配布、顧客管理を請け負わなければならなくなり、「保守」が「革新」の主張を刷って配り続けなければならないという珍現象が継続する。