ビジネス

2020.01.21

マイクロソフト本社内部「潜入」ルポ|シアトルイノベーションツアー第5回

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「より多くを達成する力を与えること」

そのミッションステートメントはビジターセンターに掲げられている。だが、マイクロソフト商業メンバーたちの創業時の若かりし頃の姿と現在の姿を比較する写真や、昔懐かしいマイクロソフト製品といった特に目を引く展示物に埋もれて、決して目立たない。

そのため、前回訪問した際には完全に見逃していた。アンジー氏の説明の後に見たミッションステートメントは大きく浮かび上がり、力強さが迫ってくるようだった。そのミッションステートメントとは以下だ。

「我々のミッションは、この地球上に存在するあらゆる人や団体に、より多くを達成する力を与えること」。

これは元々マイクロソフトに存在していたもので、マイクロソフトに長く務める方であれば当然知っている重要なミッションであると思う。

現CEOサティア・ナデラ氏がなし遂げたこと

しかしマイクロソフトは過去も、このミッション通りに事業を進めてきたのだろうか? 

アンジー氏はそうではないと言った。このミッションステートメントは確かに存在はしていたが、このミッションを常に念頭におき、時々にはここに立ち返って製品開発をしてきたかというとそうでもないと正直に教えてくれた。そしてこのミッションの重要性を訴え、マイクロソフトを今の方向に舵きりしたのが現CEOのサティア・ナデラ氏であると、アンジー氏は教えてくれた。

以前から存在していたこのミッションステートメントは、それだけでは何の価値もなかった。だがナデラ氏がそこに意味を与え、火入れをし、その火を大きく熾し、本当の意味でマイクロソフトが「地球のためにしなければならないこと」を訴え、それを全世界数十万人の社員に向けて発信したのだ。そのことでマイクロソフトは新たなステージへと進み出したのではないだろうか。


マイクロソフト本社社屋

「(カテゴリーとしての)世界」か、「(惑星としての)地球」か

ここで世界的企業の一つの共通点に気づく。マイクロソフトはそのミッションステートメントの中で「the Planet」=地球という言葉を使っている。一方アマゾンもそのグローバルビジョンの中で、「Earth’s most customer centric company(地球上で最も豊富な品揃え)」とうたっており、「Earth」=地球という言葉を使っているのである。

企業のミッションステートメントの中で良く使われる言葉は「World」=世界だが、「世界」には、「ある特定の領域」を示す使われ方もある反面、「地球」にはカテゴリーの縛りを超えた、人間以外の全ての生物、自然なども含んだ「まるごとの惑星」というスケール感がある。

試みに他のいろいろな企業の「ミッションステートメント」を見てみたが、マイクロソフトとアマゾンをのぞいては「世界(World)」が多かった。

本当の意味での世界企業に成長する上は、そもそもの「思考の限界」をどこに設定するかが重要なのかもしれない。
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編集=石井節子

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