同庁リージョナル・グループディレクターのショーン・オン氏は、この状況について次のように語る。
「ひとつのアイデアからグローバルに通用する革新的なソリューションを生み出すには、適切なパートナーを確保する必要があります。シンガポールと日本は長期的な2国間経済関係を共有しており、両国はイノベーション主導の成長を推し進めています。
これまで日本は、伝統や文化などアイデンティティを大切にする国が、どうテクノロジーを取り入れ、新たなフロンティアを開拓し、成長し続けることができるかということを、世界に示してきました。シンガポールは、そんな日本と補完関係にあり、アジアおよびその先を開拓するための良いパートナーとなりえます。多くの日本企業は、シンガポールに地域統括会社を設置して、シンガポールおよび周辺地域におけるビジネス機会を捉えています」
(左)エンタープライズ・シンガポール リージョナル・グループディレクターのショーン·オン氏、(右)著者
投資及び移動のしやすさが圧倒的
国内航空券アプリ「エアトリ」を提供しているエアトリ(東証一部上場企業)は、薛悠司氏と合弁のエボラブルアジア社でベトナムに1000名以上のオフショア開発エンジニアを構える。同社CEOでもある薛氏は、3年前からシンガポールに住みながら、C2C社というテック系スタートアップも経営している。
C2C社の本社をシンガポールにした理由については、「シンガポールは税制と各国への投資及び移動のしやすさが圧倒的に整っており本社を置くのに魅力的だ」と語る。
「とくにC2C社のようにシステムプラットフォームの提供をグローバルに行う企業にとっては、シンガポールは理想的な環境です。現状は、日本とベトナムで開発をして、市場としては日本とアメリカに展開していますが、開発および市場開拓の両方とも、シンガポールからならスムーズにマネジメントを行えます」
逆に、シンガポールから神戸市に進出したスタートアップもある。東京オリンピックを見据えて日本のアクセラレーションプログラムにも参加した「ELXR」だ。
同社はパーソナルトレーニング向けに特化したトータルフィットネスエコシステムを構築しており、その特色として、DNAタイプ別のトレーニングレコメンドサービスを展開している。専用のキットでDNAを検査し、「パワー」「バランス」「持久力」の3つのタイプに分類。スマホのアプリを通じて、タイプごとに適したトレーニングプログラムが提供されるというもので、ユーザーを急速に伸ばしている。
今後は、パーソナルトレーナーのビジネスツールとしても活用できるプラットフォームの開発に注力していく考えだ。CEOのSteffan Fung氏は、「神戸市の手厚いバックアップが、神戸に事務所開設を決めた理由だ」という。
世界経済や日本経済が冷え込むなか、シンガポールでは海外からの投資が増え続け、この国へ進出した企業、またこの国から進出する企業も伸び続けている。これからは東南アジアの拠点としての機能だけではなく、さらなる日本企業との連携により、世界のハブになることに期待したい。
連載:イノベーション・エコシステムの内側
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