「解散」前提のコミュニティを仕掛ける。異色クリエイター2人の思惑

Seihoと陳暁夏代


DJ機器やPCなどを一切使わず、シンセサイザーだけで6時間演奏を続けたSeiho。彼は大阪出身の音楽プロデューサーだ。海外のファンも多く、世界中を飛び回っている。2018年には、音楽に向き合う工程と出汁を作る工程が似ていることから、おでん屋「そのとうり」のプロデュースもしている。

陳暁は国の枠を超え、大企業からの独立を経て、そしてSeihoは音楽ジャンルや音楽業界を飛び越えて、それぞれ「枠」にはまらない活躍をしてきた。「年功序列、終身雇用という考え方に違和感を覚えた」と話す陳暁は、業界は違えど同じ価値観を大切にするSeihoと出会って、意気投合をしたという。

特に陳暁はSeihoがおでん屋をプロデュースした姿を見て、「この人は音楽以外のこともするんだ」と衝撃を受けた。業界に固執しない姿を見て、もっとこの人と関わってもいいとお墨付きをもらったようだったと語る。

こんな「個人」同士の付き合いができる人間関係をもっと増やせたら…。肩書き、年齢、性別などにとらわれず人の出会いを生み出すことができたら…。自分たちの原体験を実現化したのがNOBODYだった。

「2、3回やったら解散する」その理由



初めてイベントを行ったのは、11月だった。再開発で撤去が決まっていた廃墟ビルが舞台となった。4日前の告知にも関わらず、400人近くが集まった。ここでも、おでんが売られ、音楽が流れる。陳暁とSeihoが声をかけた別々のコミュニティが交わった。

参加者同士で新たなビジネスを始める計画を立てたり、仲良くなったり、単なる音楽イベントでは味わえない化学反応が起こっていた。成功をかみしめる間も無く、大晦日のイベントを実行することが決まった。今回も場所選びが難航し、心光院に決定したのが約1週間前だった。ギリギリの体制の中、進行した。

ここまで熱意を持って始めたイベントも2人は口を揃えて、「2、3回やったら解散する」という。もしそれが事実であれば、次回が最後のイベントとなる。

「イベントをやり続けることで、固定メンバーになってしまうのが嫌なんです。われわれは持続あるコミュニティーをつくろうと思っているんじゃなくて、人間関係の輪を広げていく作業をしています。それが固定化した瞬間、目的は達成されません」と 陳暁は語る。

それでも、インパクトのあるイベントを作っているのはなぜか。Seihoは「10年続けるイベントではなく、10年後も語り継がれるイベントを作りたい」と話す。続けることも大事だが、2人が目的とするのは、今までにないつながりを作ること。最初は目新しい出会いも、同じメンバーが何回も会うようになれば、馴れ合いの関係になってしまう。すると、また未知なる出会いへのハードルが高くなる。

それは、2人が一番避けたいことだった。実際に陳暁は2回目を実施して、形式化しつつあることを自覚している。だからこそ、「終わり」の見えるコミュニティを作りたかった。
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文=井土亜梨沙 写真=小田駿一

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