「解散」前提のコミュニティを仕掛ける。異色クリエイター2人の思惑

Seihoと陳暁夏代

突き刺すような寒さの大晦日。時計は、真夜中の12時をさそうとしていた。1時間もしないうちに新年が始まる。

東京タワーの麓にある浄土宗の心光院に20〜40代の人々がぞろぞろと集まる。新年に向けて、祈るためではない。「NOBODY」という一風変わったイベントに参加するためだ。「NOBODY」は、肩書きや年齢、性別、国籍などといった「ラベル」にとらわれない交流になるようにとの狙いからつけられている。名刺いらずの「異業種交流会」だ。


東京タワーの真下にある心光院(提供=NOBODY)

イベントでは、2013年、中田ヤスタカらと並びMTV注目のプロデューサー7人に選出されたSeihoが、シンセサイザーのみを使って6時間続けて電子音を鳴らした。朝の5時までだった。本殿では、肩を寄せあうように参加者が座り、Seihoの音楽に耳を傾けた。ピーク時には、150名近くの参加者がいた。通常の音楽イベントではなかなかないが、神聖な空間にいることから、瞑想を始める参加者も一部いた。


本殿で演奏するSeiho(提供=NOBODY)

外では、おでんや和菓子が振る舞われ、参加者たちの交流を深める。音楽業界、広告業界、起業家、外国人観光客、様々な人が特別な時間に集った。

体験したこともない空間に「異様さ」を感じた。若者が集まるお寺、シンセサイザーの音で瞑想する人々、観光客と地元の人が語り合う場など、通常はつながらない点と点が交わっている。

このイベントの仕掛け人は中国生まれのマーケター兼クリエイターの陳暁夏代と朝までパフォーマンスを続けたSeiho。驚いたのは、2人が「3、4回開催して、『NOBODY』のコミュニティができたら、解散したい」と話していたことだ。

コミュニティという言葉が様々な業界で聞かれた2019年だった。しかし、彼らはコミュニティを「壊す」ことに重点を置いているという。壊す前提で、命あるコミュニティを作る理由とは──。気鋭の2人に詳しく話を聞いた。

NOBODYのきっかけ



イベント当日、着物姿で現れた陳暁。彼女は中国人の両親のもと、日本と中国を行き来しながら育った。日本の広告代理店で4年間務めた後独立し、中国と日本双方の企業のコンサルティング事業を担っている。ツイッターでは、中国で起こる現象を日本人向けにわかりやすく解説し、フォロワーを増やした。

「中国でも日本でも肩書きを名乗らないことを徹底していました」と話す彼女は、相手の「表面」だけではなく、本質的な人間性を見ながら仕事をするようにしているという。そんな彼女が2019年に親交を深めたのがSeihoだった。
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文=井土亜梨沙 写真=小田駿一

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