がん研究の専門家がグウィネス・パルトロウに伝えたいこと

女優のグウィネス・パルトロウ(Getty Images)

女優のグウィネス・パルトロウが率いる“ウェルネスの帝国”、グープ(goop)は先ごろ、ネットフリックスで1月24日から配信が開始される番組「The Goop Lab」の予告動画を公開した。

がんについての誤解を招く可能性がある擬似科学と闘うため、専門家としてかなりの時間をこの病気の研究に費やしてきた筆者は、グープの新番組に大きな恐怖を感じている。疑似科学に基づいた数々のおかしな情報が広められていくことになると考えられるからだ。

グープは健康に関連がある“グレーな”ウェルネスの分野が好きだ。誰にも必要のないこと……デトックスや腸内洗浄(コロンクレンジング)を行うといった意味のないライフスタイルの変更や、非常に高価な(飲むと体がおかしな匂いを発する)ビタミン剤を取ることなどを、裕福な人たちに勧めている。

最近の研究結果では、「代替療法」を選択したがん患者は、従来の治療法を選んだ人たちよりも、生存率がはるかに低いことが示されている。そうしたなかでグープは、がんに関する実に奇妙な情報を流している。たとえば、ワイヤー入りのブラジャーは乳がんの原因になり得るという整骨医の見解などだ。なぜ整骨医が「下着にがんのリスクがある」などと主張するのか、理由がわからない。

アメリカがん協会は、この主張には「裏付けとなる証拠がまったくない」としている。科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」も、「ブラジャーは死因になり得るのか?」との疑問に対し、明確に「ノー」と回答する記事を掲載している。

グープはまた、「専門家」の肩書を乱用し、それによって著者の信頼度を高めようとしている。たとえば、「がんと診断されたらすべきこと」をブログに書いている人は、実際に博士だが……取得しているのは「古典学」の博士号だ。

その学位が、がんの診断と何の関係があるというのだろうか? 仮に筆者が美術について何か書くことになったとすれば、取得している分子生物学の博士号はまったく関連がなく、あえて肩書として書くこともない。書けば、ただ読者の誤解を招くだけだ。
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編集=木内涼子

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