箱根を「温泉」でなく「土」で語る 自然が生み出す工芸品の魅力

箱根の工芸品「箱根寄木細工」(写真=露木木工所)


次に箱根を上空から鳥瞰してみます。箱根の南には温暖な気候のリゾート地「熱海」があり、北には、夏でも解けない雪をたたえる日本最高峰の山「富士山」があることがわかります。

熱海がある伊豆半島は付近を暖流である黒潮が通り、冬でも暖かい気候です。この熱海には「楠(くすのき)」が自生。楠は寒さに弱く、日本では熱海が北限と言われており、メインの自生地は暖かな九州地方です。熱海に楠がある、ということは、温暖な気候の一つの証になります。

一方で富士山周辺は標高が高く、溶岩流や火山灰が大量にある土です。その環境では、人為的に植えられたものも含み、松や杉などが生えています。



また、箱根の観光名所である「芦ノ湖」と「仙石原」も見落とせません。秋になると一面のススキ野原で観光客を魅了する仙石原は、実は約2万年前までは芦ノ湖だった場所。箱根火山が噴火した時に噴出した大量の土砂で埋められて湿原となりました。

一般的に、湖の底が表土になったところは、栄養価が高く、農作物に適した土になります。それは、湖底に溜まった動植物が腐って有機物を多く含んだ腐葉土となるからです。しかし、芦ノ湖は標高が高い位置にあり、水は湧き水。周囲にはわずかな落葉樹しかありません。そのため水中の養分は少なく、自生する藻や魚などの生物も少ないです。

こうした特殊な環境は、希少価値のある「神代杉」を生み出しました。これは、大昔に、箱根付近に自生していた杉が噴火などで芦ノ湖に流されたもの。水温とバクテリアなどが少なかったため、木は腐らずに化石化しました。この木材は、現在は、箱根寄木細工で「黒」色の木材として使われています。

箱根の多種多様な環境には、わかっているだけでも1800種以上の植物があると言われています。参考までに東京の高尾山には1300種ほどです。

箱根寄木細工がカラフルなのは、多種多様な環境が箱根にあるからなのです。ここが、栃木県日光など単一木材をつかった木工産地との違いを生み出している理由です。
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文=南雲朋美

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