国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」



600億円を投じた新デザインセンター。先進デザインの部署がすべて置かれている

半端ないジャガー製「ラリーカー」


ところで、この新デザインセンターを見学した際に、何回も耳にした言葉がどうも腑に落ちなかった。つまり、デザイナーが新しいジャガーを手がけるときは常に「Britishness(英国らしさ)」を考慮しなければならないという。その意味を知りたくて、数人のデザイナーに聞いてみた。それは「さりげなさ」「ユーモア」「風変わりさ」「持続性」だという。

なるほど、「ユーモア」か。さすがに、伝説的なコメディ番組の「モンティ・パイソン」や「Mr.ビーン」のような“ユーモア”ではないと思うけどね(笑)。

だが、僕はそこにもう一つ付け加えたい。それは「美しさ」だ。僕は30年もモータージャーナリストをやっているが、どの国の女性に「どんなクルマが好きか?」と聞いても、9割以上から「ジャガー」という答えが返ってくる。やはり、英国的な美しさがあると思うので、さりげなさとユーモアと一緒に継承していってほしい。

センターの見学が終わると、そのまま施設の反対側にあるオフロード・コースに移動した。そこで待機していたのは、非常に珍しいジャガーのラリーカーだった。

まず、ジャガーと聞いてラリーカーは浮かんでこないと思う。ところが、じつは1950年にジャガーの創業者ウィリアム・ライオンズの娘とその夫が、名車のXK120を繰って名門「アルパイン・ラリー」などに出場し、53年には英国RACラリーの初代優勝者として称えられた。

今回乗ったジャガーFタイプのラリーカーは、そのXK120のラリーカーにインスピレーションを受けて作られたという。同車はラリーに参戦するためにできたのではなく、ジャガーでもFIA(国際自動車連盟)の規則に合うラリーカーが作れることを証明したかったらしい。

その走りは半端ない。凸凹のオフロード・コースを走行できるように軽量化を図り、既存のサスペンションをアイバッハ製の調整可能なダンパーに変更。それにFIA認定のロールケージをつけ、16インチのラリー専用タイヤを履かせ、大型ブレーキと油圧式ハンドブレーキをつけた。またステアリングを鋭くするために、エンジンは重めのV6ではなく、300psを発揮する2ℓを選択。全長1kmほどのオフロード・コースを走ったが、加速は十分だった。

しかもラリーカーらしく、後輪が多少スライドしながら、コーナーを気持ちよく攻められる設定になっている。このクルマはオープンカーなので、水たまりに突っ込むたびに泥が車内に飛んできた。だが、そんなことは気にしない。それこそが、「Fタイプのラリーカーに乗った」という証拠だ。歴史あるジャガーの新デザインセンターの開所式にふさわしい試乗だと思った。

混乱のなか、ジャガーがイギリスに新しいデザインセンターを建てたのは、勇気のあることだ。10年ほど前まで、デザイン部は技術部に従っていたという。しかし、魅力あるクルマを生み出すためには、デザイン部門と技術部が同位であることで初めて、美しく、人が乗りたがるものを作ることができると、今は考えられるようになった。

美しさと情熱を追求し、歴史から学ぶことを忘れてはいけない。今回のオープニング記念に参加して、それを再確認した。

文・写真=ピーター・ライオン

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