川村雄介の飛耳長目


ふと、「クール」ジャパンとは何だろう、と考え込んでしまう。クールとはイケてるとか素敵とかいうイメージで、日本のおいしい和食やファッション、アート、ポップスなどを思い浮かべる。政府のクールジャパン戦略もこれらに焦点を合わせている。

では、笑いはどうなのか。一見、地味だしカッコいい感じはない。だが、中国人たちにこれだけ歓迎される日本文化は、紛れもなくクールなのではないか。ついつい理念先行で考えがちのクールジャパン戦略も少し立ち止まって見る必要がありそうだ。

そう思うと、日中経済協力の在り方にも参考になる。2018年、両国は第三国における経済協力に関して50件近い覚書を交わした。でも、進捗はいまひとつの感がある。日本側の気合が入り切らないことも一因らしい。確かに一たび二国間関係が緊張した時の中国の反発は凄まじかった。激しい反日デモが繰り返され、長年構築してきた工場や商業施設が打ち壊しの目に遭い、身の危険を感じた日本人も少なくなかった。これらがトラウマになっている日本人と日本企業は少なくない。

だから、ハードな施設を持たず臨機応変に動けるソフト経済分野で、中国人にも訴求力のあるジャンルのものがよいのではないか。それは、歴史に呪縛されない文化であり、すなわちエンターテインメントなのかもしれない。

折から、日本のトップエンタメ企業と中国最大のメディアグループが合作で合意に至った。同社は中国周辺19カ国が加盟する『一帯一路映画祭連盟』にも招聘されているそうだ。

ようやく引けてきた中国大戯院の会場で、陳君が感慨深く話しかけてきた。「100年近く前、あなたの座っている席で、京劇の名優、梅蘭芳の舞台をじっと見ていた日本人がいたんですよ」

当時、中国から日本の新聞に連載レポートを書いていたというその人の名を、陳君はこう答えた。「若い作家で、芥川龍之介といったそうです」。


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

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