川村雄介の飛耳長目

大音量のロックミュージックが流れる中、薄暗い舞台では、女装した無精髭の白人が、ショートコントやコミカルな出し物で客の気を引いている。かぶりつきで談笑しながらハイボールを傾けているのは若い中国人カップルたちだ。ショーのレベルは、新宿二丁目のクラブの足元にも及ばないが、ホールの活気ばかりは負けていない。

上海は旧租界の端に佇む「蘭心大戯院」である。昼間は伝統演劇を上演しているそうだが、最近ではナイトショーのほうが儲かるという。それに2020年からは改装して、日中合作のイベントを開催する計画なので、当面は幕間つなぎなのかもしれない。

日本にいると、中国は米中摩擦で大変なことになっていると思い込む。公表される経済指標は冴えないし、報道も悲観的だ。だが、中国の大都市を見る限り、悲壮感は見られない。新天地にはお洒落な飲食店が並び、上海人、国内のお上りさん、それに外国人客でごった返している。東京の原宿といった風情だ。淮海中路の書店には日本人作家の棚が所狭しと設えられ、人だかりができている。米国コーナーも人気だ。トランプへの恐怖など微塵も感じられない。

街案内をしてくれた陳君は、2020年の米国大統領選挙では、トランプが勝ったほうがいい、という。「だって共和党も民主党も皆、反中国。やり口がわかってきたトランプのほうが楽だよ」。

この夜はまた劇場だった。それも一風変わった演目だという。内装がウィーンのオペラハウスを思わせる豪勢な造りの建物は、中国大戯院である。中国語と日本語のポスターが張り巡らされている。この日の演目は日本ではおなじみのコメディだ。日本語での上演だが、中国人に受けるのだろうか。

700席はほぼ満員。しかも8割以上が中国人だ。劇が始まるや否や、会場は笑いに包まれる。日本人の劇団員たちは大阪弁で演じている。字幕が出されるとはいえ、このスピードに付いていくのは容易ではないだろう。注意して観察すると、字幕が途切れたときのほうが、笑いが多い。というより爆笑になる。

VIP席の熟年中国人は政府関係者だろうか。幕が上がってしばらくは、ニコリともせず気難しそうに俯いていた。ところが30分もすると、上半身をくの字に曲げてひーひーと呻きだす。笑い過ぎて過呼吸になったのだ。どうも言葉ではなく、所作や表情、それに状況描写が笑いを引き出しているようだ。

幕が降りると、出口で見送りに出る劇員たちを観客が十重二十重に取り囲んで、大写メ大会である。在留邦人の家族がツーショットを撮ろうとするが、我先にとなだれ込む中国人に押されがち。

文=川村雄介

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