「努力」の捉え方に関しても日本は独特なのかもしれません。小中学校では、努力していたら成績表にいい評価がつく。とにかくがんばっていたら評価されるわけです。けれど、社会に出て仕事をはじめると、がんばっても結果がなかったら評価されません。このとんでもないギャップに対応できない子が多いんです。だから就職してもすぐにやめてしまう子が多い。
選手の中にも「めっちゃがんばったのに、ぜんぜん評価してもらえないんですよ」と文句を言う子もいます。それって、興国のEチーム所属(上位チームからアルファベット順)の選手が「24時間かけてサッカーの練習をしたのでAチームで試合出してください」と同じくらいに無茶な話なのに。
僕は、成功されている方が口を揃えていうように、「がんばったから結果が出るものではない。努力してもダメなときもある。でも、あきらめないという気持ちが大切」ということを教えます。高校1年生の時から自分で考えて行動することをはじめ、世の中には競争しかないと教えないといけないのです。
リバウンド・メンタリティを育む叱り方
──生徒を「叱る」ときにはどんなことに注意していますか?
叱るところはしっかり叱ります。思いっきり叱りますが、必ず褒めもします。2年前にプロに行った子を、試合中に対戦相手が引くほど叱ったことがありました。「二度と試合に使うか!」と言うこともありますが、思いっきり叱った選手ほど、次の日試合でスタメンの起用するのです。
大切なのは、なぜあそこまで監督が怒ったのかを理解させること。そして、叱った後にスタメンに起用することで、自分が期待されているんだということを理解させることが大切です。そこを理解してくれたその選手は、グッとパフォーマンスを上げ、世代別の日本代表チームに選出されるまでになりました。
日本は失敗した人に対して厳しくないですか。それだとリバウンド・メンタリティ(逆境をバネにできる力)を持てないんですよ。叱った後で期待を伝えるというリバウンドメンタリティを刺激する指導は、技術指導と同じくらい時間をかけてやっています。
──感情的になることはないのですか?
よく、感情で叱るな、なんて言いますよね。もちろん、冷静に叱らなくてはならないでしょう。僕は、叱り方を分けていています。人として許されないこと、例えば裏切ったり、親への感謝を見失ったりした時は、あえて感情的に怒りを表現します。
サッカー強豪国のブラジルやスペインだと、選手も監督も感情むき出しですよね。試合中でも平気で言い合いをしています。ですが、試合に勝つと互いに肩を組んでロッカールームに向かう。すごいなと思いました。
感情表現もしても、ノーサイドの精神とでもいうのでしょうか。いい意味での喜怒哀楽を、監督や先生が表現していってあげないと、子どもたちがどんどんロボットになってしまうと、スペインに行ってそう思いました。なので、僕も生徒たちと一緒にちょけて(ふざけて)ます。
こうした普段からのやり取りのせいか、大人とも自然にコミュニケーションをとれるようになった生徒もいます。大学やプロの練習などに参加すると、「受け答えができる」と評価されるんです。こういった能力は、プロのチームにとってもらえる要因の一つ。プロという大人の社会に入るなかで、自分から要求をしたり、質問できたりしているようです。
──トップダウンとボトムアップ、そのどちらかだけではダメということですね。つまり「融合」が指導の肝だと。
そうですね。ボトムアップだけでは結局子どもたちの知識の延長線上でしかないですから、監督や教師の指導も必ず必要です。
高校サッカーの場合は毎年選手も変わりますから、ボトムアップとトップダウンの比率は、その年の中心となる選手たちの人柄や人間性で変えてやるのがいいかもしれませんね。
「高校サッカー選手権の大阪代表に興国高校が初出場。僕らの時代、なんて言っても65年くらい前の話をしても意味ないけど、興国は高校野球の強豪校だった。だからサッカーで大阪代表と聞いてびっくりした。内野智章監督のコメントをスマホで見たが世界を念頭に置いた指導方法とその考え方に感銘を受けた。」
こうツイッターに投稿したのは、Jリーグ初代チェアマンで日本協会会長も務めた川淵三郎だ。高校サッカー選手権の大阪代表に興国高校が初出場。僕らの時代、なんて言っても65年くらい前の話をしても意味ないけど、興国は高校野球の強豪校だった。だからサッカーで大阪代表と聞いてびっくりした。内野智章監督のコメントをスマホで見たが世界を念頭に置いた指導方法とその考え方に感銘を受けた。
— 川淵三郎(日本トップリーグ連携機構会長) (@jtl_President) December 27, 2019
「プロになるなら興国高校」と言われる同校サッカー部には、多方面から注目が集まる。選手権さえも通過点とする同校を卒業した選手たちは、それぞれの人生の道でゴールを目指し続けることとなる。
連載:日常生活のイノベーションを考える
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