プロを次々輩出 興国高校サッカー部の監督が実践する 逆境に強くなる「叱り方」

内野智章監督





──それでも、監督の考えと選手たちの考え、またキャプテン内でも意見が対立した時にはどうするのですか?

そういう時もあります。例えば、インターハイ予選の時は、意見が完全に食い違った。キャプテン7人が、4対3で割れた上に僕が入って4対4に。そこで、第1キャプテンの意見を採用しましたが、うまくいきませんでした。大会が終わってからミーティングを重ねるなか、第2キャプテンが第1キャプテンに「ずっとこれでやってきたのに、なんであそこで変えたんだ」と言う。こうした喧嘩も僕の目の前で起こります。

インターハイなどの公式戦で、判断を誤る失敗も経験しました。僕たちは、「高校サッカーは通過点」とよく言っていますが、こうした失敗を経験しながら修正していくことが大切だと思っています。

普通の高校生としての「感性」を磨け

また、普通の高校生としての多彩な経験をさせておくことも不可欠です。ですから、人間形成という意味では、休みを増やして遊ばせることも、大切だと考えています。サッカーだけでなく、違う世界を見せるということ。そしてそのなかで、選手の自立に任せる部分と、監督や教師の指導すべき部分を両立させる。そうしないと、僕が目標とするプロ戦選手を育てることはできません。

高校サッカー界で有名になり有名大学に進学、またはプロになる生徒も出てきます。しかし、お金や女性といった今までになかったものが目の前にあふれた途端、コントロールを失って消えていく選手を何人も見てきました。高校時代にサッカーだけにならず、男女交際も経験し、感性も磨く。1人の人間として総合的に成長した方が、いざ、プロ選手になった時に成功するのではないかという仮説をもっています。

──「感性を磨くことが大事」とはご自身の経験からですか?

そうですね。僕自身は子どものころから、よく反抗していました。勉強の成績は悪くないのに、先生には一番反抗する。「先生に煙たがられるタイプ」だと親からも言われました。納得がいかなければ怒る。リスペクトできない大人の言うことは一切聞かない。

高校選手権でベスト4に入った初芝橋本高校の指導は厳しかったのですが、吉原宏太さん(元サッカー日本代表)はじめ数人がプロに進みました。そういった人たちってトップダウンに屈し切っていなかったことに気がついたんです。「これは違うな」と思ったらかみつくような反骨心ある人がプロになっていました。

こうした反骨心は、これまでの日本の教育では育ちにくいのかもしれないと思います。知り合いにサッカー選手としてブラジルに渡り、自営業をされている方がいらっしゃるんですが、すごく衝撃的だったのが「日本は世界で最も成功した社会主義の国だと、ブラジル人は思っている」と話されていたことです。

意味がわからず、どういうことか聞くと、「“前にならえ”とか、ありえない」と。あれだけ時間に忠実で、勤勉で、コントロールされている日本人は最も成功した社会主義の国だと。

体罰もブラジルでは考えられない。一方的暴力がまず考えられない。それってトップダウンが強く残る日本の教育そのもの。軍隊的な発想です。
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文・写真=上沼祐樹

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