経済・社会

2020.03.03 16:30

ビル・ゲイツ夫妻の慈善団体が「避妊」を支援するわけ

メリンダ・ゲイツ(Bryan Bedder/Getty Images for THR)

メリンダ・ゲイツ(Bryan Bedder/Getty Images for THR)

昨年末発表された「世界経済フォーラム」による「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本が前年の110位からさらに順位を下げて153カ国中121位、G7諸国中「断然最下位」という結果が大きな話題となったことは記憶に新しい。

そんな中、夫ビル・ゲイツとともに世界最大の慈善団体の共同議長を務めるメリンダ・ゲイツが著書を上梓、その日本語版も刊行された。「女性が飛び立てば、世界中の人々が飛び立てる。女性の地位を包括的に向上させることが、世界全体の進歩につながる」という強いメッセージが印象的な、『いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる』(2019年11月、光文社刊)だ。

ゲイツ夫人は同書の中で女性や少女への国際的な支援が必要な理由を示し、解決策を提案している。本書から抜粋し、世界が注目する彼女の活動の一端を覗いてみたい。

妊娠を恐れる女性たち


財団を設立して間もないころ、出張でアフリカのマラウイを訪れ、忘れられない光景を目にしました。焼けつくような暑さの中、多くの母親が子どもに注射を受けさせようと列をなしていたのです。

話を聞いてみると、遠くからはるばる歩いてやってきたそうで、その距離は15〜25キロに及びました。1日分の食料を持参し、ワクチンを接種させる子どもだけでなく兄弟も連れてきていました。

日々過酷な状況を生きている母親たちですが、その中でも特に過酷な一日でしょう。私たちはちょうど、もっと近場で容易に、より多くの子どもがワクチン接種を受けられるよう模索している時でした。

その日、幼い子どもを抱えた若い母親に話しかけた時のことが強く印象に残っています。「お子さんのワクチン接種にいらしたんですか?」

すると母親は、こう言い出しました。「私の注射は? 注射を受けるには、こんなに暑い中を20キロも歩いていかないといけないのよ?」

子どものワクチンではなく、自分が受けたいデポ・プロベラの注射のことを言っていたのです。デポ・プロベラは、接種すると長期間効果が持続する避妊薬です。

その母親は既に子どもの数が多すぎて、満足に食事を与えられず、再び妊娠するのを恐れていました。しかし子どもを連れ、丸一日費やして遠くのクリニックへ行ってもデポ・プロベラの在庫があるかわからず、ストレスを感じていました。当時、旅先で出会う女性の多くが同じように、こちらが子どものワクチンの話題を出しても、避妊薬の話をし始めるのでした。



出産間隔を開けると子どもの生存率は激増する


またニジェールのある村で、サディ・セイニという名の母親のもとを訪れた時のことも印象に残っています。私とサディが話している間、六人の子どもたちはサディの気を引こうと、競い合ってちょっかいを出していました。

サディも多くの母親と同じように、こう言っていました。「また子どもを産むかもしれないなんて、ひどい。今いる子どもにさえ食事を与えられずにいるのに」
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