ビジネス

2020.01.15

論理的コンサルは果たして経営者に価値を与えているか?

IDEO米オフィス(Boston Globe / Getty Images)

プロの音楽家としてキャリアをスタートさせた異色のビジネスコンサルタント松永エリック・匡史。今回からこの連載では、アーティストでもあるエリックが独自の視点でビジネスのあり方を見つめ、未来へのヒントを導き出す「エリック流 クリエイティブ思考」についてお伝えする。

第1回は、日本におけるビジネスコンサルの流れについて振り返り、MBA的アプローチ、デザイン思考の軌跡を辿る。エリックが目指す「クリエイティブ思考」はこれらを超えた先にある。


コンサルで覚えたMBA的アプローチの違和感

私のキャリアのスタートは15歳、プロの音楽家としての活動でした。ギタリストとして国内で演奏を続けた後、高校を卒業してから渡米。バークリー音楽院でさらに専門の教育を受けました。そして帰国後、自分の生き方を変えようと、青山学院大学の修士課程で経営を学び、新たな一歩を踏み出したのです。

最初にビジネスコンサルの門を叩いたのは、世界最大の経営コンサルティングファームであるアクセンチュアの前身、アンダーセン・コンサルティングでした。思えば、企業の経営トップの相談役となりビジネスや業界を変えていくという、漫然としたイメージだけで、この業界に飛び込みました。

1990年代、まだデザイン思考さえ知られていなかった当時のビジネスコンサルは、今よりさらにMBA的なアプローチが主流でした。修士課程で学んだことを、そのまま実際のビジネスで生かそうとしていました。

成功事例をベースに現状分析し、ベストプラクティスをフランケンシュタインのように継ぎはぎして組み上げ、そのギャップを埋める施策を案件化し、コンサルティングサービスとして提供するという、課題解決型の基本的な流れに、私はどうも納得がいきませんでした。

しかも、「論理的な証明は正しい」という大前提が、このコンサルティングにはあります。ですから、課題に対して、証明し得る小さなありきたりな結論を導き出すために、膨大な情報を集めるのですが、こういった作業にクライアントを含め誰も疑問を呈していないことが、私には不思議で仕方ありませんでした。

論理的コンサルは「情報の整理」に過ぎないのではないか

ここで、少しMBAの歴史について振り返りたいと思います。

MBAは、経営学修士号または経営管理修士号と呼ばれる学位で、経営者や経営をコンサルティングするビジネスプロフェッショナルの育成を目的としています。どっぷりとアカデミックなものではなく、実践的なビジネスへと寄っているのが特徴です。

1881年、明確な数字で証明できるファイナンスを中心に、マネジメントやマーケティングを教えた米国のウォートン・スクールで、MBAは産声をあげました。1908年には、ロースクールで重視される判例を活用したハーバード・ビジネス・スクールの「ケース・メソッド」が有名になりました。成功事例を証明し、論理的に正しいとさせるビジネスコンサルの大前提は、ここで確立されたのです。

さらに、1926年に、シカゴ大学経営学部教授のジェームズ・O・マッキンゼー博士が会計士時代に培った、数字での論理的証明の考え方が基礎となった「ファクトベース(事実に立脚)」と「アナリティカルアプローチ(分析的アプローチ)」を提唱し、戦略コンサルティングを牽引してきました。

つまりファクトベースとは成功事例であり、逆にそれがないものは証明できないので、論理的に正しいとは言えなくなるのです。
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文=松永エリック・匡史 構成=細田知美

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