ビジネス

2020.01.15 08:00

論理的コンサルは果たして経営者に価値を与えているか?


音楽家から転身した私は、こういった論理的なビジネスコンサルティングを、創造的(クリエイティブ)ではなく、膨大な情報を整えて結論を導き出す「整理学」の権化のように感じていました。

本当にこれが経営者に価値を与えているのか、経営者は満足しているのかと、いつも違和感を覚えていました。

優秀といわれるコンサルタントは、皆、情報の収集と分析を行い、成功事例を継ぎはぎしてつくり出したものを、論理的に正しいと証明するために膨大な量の資料を徹夜で作成する「製造マシーン」でした。

迫り来る時間とプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、処理能力と体力を限界まで振り絞る、まるで戦士のようでした。日本では、今でも基本的に変わっていないと思います。

しかし、新人の私にはその理不尽さを主張する機会もなく、まずは戦士としての訓練と実戦に勝ち残ることが目の前の課題でした。ようやくクライアントと直接議論ができる立場になった時、それまで持っていた違和感を紐解いていくようになったのです。

プロジェクトを数多く経験してみると、すべてがクライアントの満足を得られているわけではないことが浮き彫りになってきました。またコンサルタントにイノベーティブな発想を期待していないこともわかりました。感じていた違和感は的中していました。

日本では生かされていない「デザイン思考」

テクノロジーの進歩とともに、ビジネス自体も大きく変化しました。現代では、過去に事例のない課題に向き合い、誰も見たことのない価値を創造しなければなりません。そういったなかで、ファクトベースの論理証明型のコンサルティングは価値を失っていきました。

そして今度は、デザイナーが創作を行う際の思考法を体系化した「デザイン思考」がコンサル業界の中心的な考え方になっていったのです。

デザイン思考とは、簡単に言えばデザイナーの頭の中を科学的に分析したものです。

ひと口にデザイナーといっても、都市計画の分野のアーバンデザイナーや環境デザイナーといった空間をデザインする領域から、ファッションデザイナーやインダストリアルデザイナーといったモノをデザインする領域、さらに昨今人気のゲームデザイナーやアニメーションのキャラクターをデザインする領域など、幅広い分野をカバーする言葉ゆえに、受けとる側のイメージもさまざまです。

ですからデザイナーと呼ばれるすべての人が、同じ思考法を持っているとは考えにくいと思うのです。

では、デザイン思考とは、どのように確立されてきたのでしょうか。流れを知ることが重要になってきます。

歴史を振り返ると、諸説ありますが、建築家ピーター・ロウの「デザインの思考過程(Design Thinking)」が、現在のデザイン思考に大きな影響を与えていると思います。彼はこの著書の中で、彼は建築家と都市計画者が用いる方法論についてこう語っています。

「建築は、芸術的な美しさや便利さはもちろんですが、安全的視点での強さが必要になります。だからこそ芸術に加え科学的分析が重要となるのです」

さらに、1992年に出版されたリチャード・ブキャナンの論文「デザイン思考における厄介な問題(Wicked Problems in Design Thinking)」では、「デザイン思考とは、デザインを通じて人間の困難な課題を扱うものだ」とあります。

つまり、建築的な見地からの多方面の課題は、人間が持つさまざまな困難な課題に通じるものがあると言いたかったのでしょう。
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文=松永エリック・匡史 構成=細田知美

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