ビジネス

2020.01.15

論理的コンサルは果たして経営者に価値を与えているか?

IDEO米オフィス(Boston Globe / Getty Images)


こういった「デザイン思考」をビジネスの世界に本格的に持ち込んだのが、デザインコンサルタント会社IDEO創設者のデビッド・M・ケリーだということに異議を唱える人はいないでしょう。

デビッドは、電気工学出身のエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、スタンフォード大学でプロダクトデザインを学んだのち、1991年にIDEOを創設しています。なのでIDEOでは、科学的な分析のバックグラウンドにプロダクトデザインが組み合わせられているのです。

これまで数多くの実績を生み出しているIDEOの方法論とは、デザイナーが主観を大事にしながらビジネスプロセスに参加し、人間の欲求について潜在的なレベルまで徹底的に探り、新しいビジネスをデザインして革新的な業績やプロダクトを生み出すというものです。 それ以前には考えられなかった、画期的な手法でした。

IDEOの登場を機に、世界のトップコンサルティング会社は、デジタル事業と称して、デザイン思考を持った企業の買収を始めました。

デザイン思考の高まりと日本での受け取られ方

IDEOの方法論を軸としたデザイン思考は、コンサル会社の従来の課題解決型ビジネス戦略のフレームワークと体型が似ていて、比較的流用しやすかったため、欧米では一気に広がりました。そして、デザイナー出身者を最高位であるパートナーに就かせ全体のリードを任せるようになったのです。

しかし、日本では、コンサル経験を必要以上に重要視しているため、従来型のコンサルタントがデザイナーの業務を管理しました。当然、プロトコル(共通言語の認識)が合わず、デザイン思考は上手くいきませんでした。これが、欧米と日本のデザイン思考の決定的な違いです。

コンサルタントはあくまでもファクトベースであり、デザイナーは人間を中心としつつ創造性を許容した幅の広いものであり、そもそもの発想が違うため、どこに視点を置くかの課題設定が大きくずれているのです。ですから、デザイン思考を取り入れても、最終的なアウトプットが、期待値をなかなか超えられないというケースが多く見受けられました。

日本において、コンサルティング会社のデジタル事業がぱっとしないのは、デザイナーに場を任せきれないことが原因だと言えるでしょう。

デザイン思考は、人間が持つ課題がベースであり、潜在的なニーズを探り当て、社会的価値を追求できたとしても、クライアントの想像を超えるような革新的なビジネスを創造することはできません。デザイン思考を取り入れたコンサルティングも、MBA的コンサルティングも、課題解決型という意味では、さほど変わらないのです。

IDEOの登場以降、あいかわらずビジネスコンサルティングの界隈では、デザイン思考のブームは続いていますが、最近ではそれを超えるものとして「アート思考」という思考法が登場してきました。その背景には、非連続的で、これまでにないビジネスモデルやサービスを創造しなければならないという危機感の高まりが存在すると考えています。

次回はこの「アート思考」について、また「アーティスト思考」について、詳しく説明していきます。


連載:エリックのInnovation and beyond

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音楽家でありビジネスコンサルタントであり大学教授の松永エリック・匡史が、
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文=松永エリック・匡史 構成=細田知美

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