多様化する「贅沢」と葛藤するトップシェフたちの挑戦

シェフのイヴァン・ブレム(左)とルカ・ファンティン(右)


環境保護の視点からも、輸送の際にかかるCO2の排出量が少ない地元の食材を使うということは、今やスタンダードとなりつつあるが、地元の食材を使うだけではなく、サステナブルな観点から、本来捨ててしまう部分も使う、という考えも浸透しつつある。

台湾「ムメ」のリチャード・リンは、台湾産の中国茶を提供した際に、ポットに残った茶殻を練りこんだ生地でタコスをつくり、その上にカニやポメロなどを載せたひと口前菜を提供しており、パネルディスカッションの際に訪れたゲストに振る舞われた。



ファインダイニングにこれまで廃棄してきた端材を使うことについて、「無駄にしない」というだけなら、「それはまかないで使うべき」という意見もあるだろう。しかし、レストランは、人の考え方を変える提案ができる場でもあると考えると、状況は少し違って見える。食べた人は、こんなにおいしくできるなら、自宅でも端材を使おうと考えるかもしれないからだ。

変化する「贅沢」のかたち

デンマークの「ノマ」で働いた経験のあるリンは、同店が出す料理と同様に、時代は、「実」だけではなく、「茎や葉」などを使う料理に回帰していると指摘する。


台湾「ムメ」のシェフ リチャード・リン

確かに、畑を持ち、自家消費するのが主流だった時代は、摘果した未熟な実なども無駄なく使ってきた。今の時代は、最上級のものだけを抜き取って使うという贅沢から、自然にもっと寄り添うことが望まれるようになってきているのではないだろうか。

とくにファインダイニングでは、料理をただ味わうだけでなく、サービスなども含めて「客が良い気分になる」というのが目標でもある。環境への配慮が強調される世の中で、客が環境に配慮した料理を食べたという満足感を持ち帰ること、また無駄なく食材を使う見本を見せることも、大切になってきているのかもしれない。

こういった選択肢は、一人一人のシェフが自由に選ぶ時代になっている。それだけ、ラグジュアリーな食における、多様化が進んでいるということが言えるだろう。

文・写真=仲山今日子

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