多様化する「贅沢」と葛藤するトップシェフたちの挑戦

シェフのイヴァン・ブレム(左)とルカ・ファンティン(右)

最近、食の世界では、地元の食材を使い、その土地の風土を表現していくのがブームだ。郷土食であるローカルフードやB級グルメのようなストリートフードを、高級料理にアレンジした店も注目を集めている。

しかし、豊かな食材に恵まれた国であっても、「地元の食材を使うことは簡単ではない」とアジアの多くのシェフたちは口にする。

昨年10月、この問題をテーマにしたインターナショナル・シェフズ・サミット・アジアが行われた。話し合われたのは「Sourcing Locally, Innovating Globally」、地元の食材を使い、それをいかにグローバルなレベルに進化させるかについてだ。会場では、アジアのベストレストラン50に名を連ねるシェフラによるパネルディスカッションやコラボレーションも行われた。

東京のイタリア料理のアイデンティティとは

ミシュラン東京で1ツ星、アジアのベストレストラン50で18位に輝く「イル・リストランテ・ルカ・ファンティン」は、昨年で10年目を迎えた人気店だ。

しかし最初からうまくいっていたわけではなかった。そのシェフ、ルカ・ファンティンは、イタリアンのファインダイニングがまだ少なかった頃を、「10年前には東京でイタリア料理といえば、カジュアルなパスタ、ピザが主流。イタリアにあったファインダイニングをやろうとしても、注文がとれませんでした」と振り返る。

7年前に、思い切ってアラカルトをなくし、コース1本の店に変更。リスクを取っても、自らが信じる料理のあり方を食べる側に提案していく道を選んだ。

シェフのルカ・ファンティン
シェフのルカ・ファンティン

食材に関しても当初はイタリアからの輸入食材だけを使っていたが、「7年前、かつての修業先であった龍吟の山本征治シェフが香港に支店をオープンするタイミングで話を聞き、日本の山や川など自然と関わりのある料理を提供していきたいと思うようになった」という。

それをきっかけに、日本全国200以上の生産者と直接会い、自ら吟味した食材を使うようになった。日本の食材は、たとえ同じ品種であっても、土壌や水の違いから、イタリア産とは異なる。

ただ、そのことよりも、「食べる人に『日本食材を使うオーセンティックなイタリア料理』を理解してもらうのが一番大変だった」のだという。

提供する料理の「国籍」とは異なった国の食材を使う場合、よく取りざたされるのは、それはフュージョンなのかどうか、ということだ。最近、食の世界では、「フュージョンはコンフュージョン(混乱)を招く」との声も聞く。どこの料理であるのかというアイデンティティがなく、食べる人が混乱する、というわけだ。

それを避けるためにファンティンが大切にしているのは、あくまでもイタリア料理のバランスにして、自分の味の記憶や、国と関連づけること。例えば、イタリアで食べられていない食材は使わない。それを、自らがつくるイタリア料理として定めた。

そんな中、近頃は、国籍に縛られない料理を提供するレストランも出てきている。サミットでファンティンとコラボした「ヌーリ」のイヴァン・ブレムは、マレーシアの食材を中心に使い、ブラジルのストリートフードと、タイのイエローカレーの共通点を表現した料理を提供し、「クロスカルチャーキュイジーヌ」と名付けている。国にとらわれず、世界の食の「共通点」をアイデンティティにした料理だ。
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文・写真=仲山今日子

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