ビジネス

2020.01.08

日本で最も「イノベーティブではない」産業は?危機管理経営の専門家に聞く

蛭間芳樹氏


銀行と商社は廃れていく

ランキングでは全般的に、自動車や化学、電気機械などの製造業が目立ちますが、投融資環境の観点でも、このところ製造業が注目されています。製造業の国内設備投資額は着実に伸びていて、2019年度は13.5%増(日本政策投資銀行調べ)。また、非製造業でも運輸や不動産、物流施設、並びにデータセンターの設備投資が増えています。

トヨタのように業態転換を進めるため、あるいは人手不足に対応した店舗・物流投資、デジタルインフラ整備に向けて新たな設備投資が必要とされており、その資金ニーズに対して銀行が積極的に融資をしているという状態です。まもなく5G関連の投資が一気に始まります。

翻って、銀行は一行もランク入りしていません。なぜなら銀行は、最も「イノベーティブではない」産業だからです。グループ統合、店舗封鎖、人員削減など、ディフェンシブな対応をさせるを得ない状況です。銀行は、顧客の信用情報を創造する情報産業とも言えますが、個人のビッグデータが簡単に取れる時代に、グーグルやアマゾンが始める銀行に勝てるかといえば、まず無理です。データの量とスピードには、伝統的な金融機関は太刀打ちできません。

今、企業に求められているのは、ビジネスモデル自体の変革です。このランキングに、銀行・商社という日本の伝統的な業態がほとんど入っていないのは、旧来のビジネスモデルを変えないと生き残っていけないということの証左です。商社や卸売業などの中抜き産業は、新しい付加価値を生み出すビジネスモデルに変わらない限り、今後消えていくでしょう。

改善レースがイノベーションだと思っている人たちがいる一方で、ビジネスモデルを含めて破壊し、変えていこうとする人たちがいる。そこには大きな違いがあります。「我々とは何者か」を再定義し、危を機に変換する危機管理経営をできる会社こそが、イノベーティブと言えるのではないでしょうか。

ローマ帝国が滅亡したのは、自分たちで作り上げた基盤を維持管理できなくなったからです。インフラを作れば作るほど、その維持だけが目的になり、自滅してしまう。改善ばかりしても、どこかで創造的に破壊しなければならないのです。それは歴史が証明しています。


蛭間芳樹◎1983年生まれ。東京大学大学院工学系研究科卒。2009年、株式会社日本政策投資銀行入行。企業金融第3部を経て、11年よりサステナビリティ企画部BCM格付主幹、18年より経営企画部兼務。専門は社会基盤学と金融。

日本で最もイノベーティブな企業を選出した「GREAT COMPANY 2020」。ランキングは特設ページで公開中。

文=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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