シネマの女は最後に微笑む

左からモーガン・フリーマン、ダイアン・キートン(Getty Images)

年末年始で離れていた家族が集まった時、出やすい話題の一つに「不動産問題」がある。子供たちが独立し、夫婦二人で住む家も古くなったのでリフォームしたい。二世代で住むために建て替えたい。売却し、夫婦でマンションに引っ越したい。あるいは、年老いた独居の親を子供が引き取って空き家を売りに出したい──。

いずれにしても、家や土地という大きな財産をどう扱うかは、家族全員に関わる問題であるため、皆が顔を揃えた時に、主に親世代から相談事として出されるのである。不動産屋への問い合わせも1月が多くなるという。

不動産売却の理由は住み替えが最も多く、昨年は消費税増税があったため、その前の駆け込みが多かったようだ。今年開催されるオリンピック効果で価格はしばらく上昇するが、4月に民法の改正があり、売り主の負担が増えるとのこと。できるだけ早めにできるだけ高く売りたいと思っている人には、しばらく悩ましい季節となりそうだ。

『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』(リチャード・ロンクレイン監督、2014)は、不動産の売買をめぐるドタバタを、老夫婦の姿を通して描いたコメディ。こじんまりとした作品だが、モーガン・フリーマンとダイアン・キートンの年季の入った夫婦ぶりが好もしく、背後に見え隠れする現代社会への視点にもピリッと風刺が効いている。

家を売る直前にまさかのトラブル

画家のアレックス(モーガン・フリーマン)と、元教師のルース(ダイアン・キートン)は、ブルックリンに住んで40年になるカップル。住まいはエレベーターのないアパートの5階で、毎日の階段を上り下りがちょっとしんどくなってきたところだ。

かつては売れない芸術家の住む街だったブルックリンは今、住みたい人の多いおしゃれな街。古アパートでもかなりの高値がつくということで、夫婦は既に住まいの売却を決めている。

居心地良さそうな落ち着いたインテリア、適度な散らかり具合もいい感じのリビングやキッチンの描写から、二人の歴史が刻まれた暖かい住まいの匂いがしてくるようだ。

明日の内覧会を前に、張り切ってあれこれ指示を出す不動産エージェンシーの姪リリー(シンシア・ニクソン)と、結構のんびりしている老夫婦の対比が面白い。

二人の間にも、微妙な温度差がある。ここでの思い出を大切にするアレックスが迷いを口にする一方、ルースは老いた自分たちの先が心配だ。過去を懐かしみ「今」を変えたくない夫と、将来を憂い心機一転したい妻という図は、わりとよくあるかもしれない。

主軸のストーリーに絡んでくるのが、愛犬ドロシーの突然の入院と、近くの橋でタンクローリーが立ち往生する事件。ドロシーは困難な大手術を受けねばならない羽目になり、橋の事件は運転者が姿を消したことで、メディアは一斉にテロ疑惑を報ずる。

前者は夫婦の生活に起こったアクシデント、後者は社会的なアクシデントだが、実際にテロが起こらないまでも疑惑が高まっただけで、不動産価格に影響を及ぼさないわけがない。住まいを売るという人生の大きな決断をした時に図らずも降りかかってくる内外の危機に、二人は振り回されることになる。

文=大野 左紀子

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