直撃レポート 北朝鮮に学ぶ「ノルマも労働者の質の高さも逆作用」の理由

写真=牧野愛博


大きなクマのぬいぐるみを抱えた女性も何人かいた。金正恩朝鮮労働党委員長が始めた服装や装飾品の自由化の影響だろう。「最高指導者以外はみな平等」とされる時代は終わった。昔は、他人の目を恐れて、質素倹約で通していた北朝鮮の人たちも、おしゃれや娯楽を少しではあるけれども、楽しもうとする空気が出てきたのだろう。



一方、空港で声をかけた北朝鮮労働者たちは気さくに、しかし他人の目を気にして、途切れ途切れに返事をしてくれた。

ある人は「故郷に帰るのは5年ぶりだよ。平壌に帰るんだ」と話してくれた。またある人は「このご時世で、どこにいても生活は苦しいばかりだよ」と愚痴をこぼした。みな、新年になって、ロシアに戻ってくるかどうかは明確に語らなかった。

この人たちはロシアでどんな風に働いていたのだろうか。興味を持った私は翌日、ウラジオストク市内で朝鮮系ロシア人の男性と会った。お昼時だったので、ロシア風水餃子のペリメニを一緒に食べながら、話を聞いた。

彼は48歳。祖父が北朝鮮出身だという。「朝鮮語は20歳になって習ったので、ちょっとたどたどしいんですが」と語る。内装業を営んでいて、朝鮮語ができるため、北朝鮮労働者と一緒に仕事をすることが多かった。

「彼らはものすごく勤勉ですよ。ロシア人が10日で仕上げるところを3日でやってしまう」。北朝鮮労働者は仕事に飢えている。毎週土曜日に北朝鮮労働者の職場単位で行われる政治学習「生活総和」の際、上納金を払わなければならない。「彼らは2~3人で1つのチームを作ることが多いんですが、24時間体制で働くんですよ」。通勤時間も惜しんでか、交代して休む労働者は車庫などで寝泊まりしていたという。

賃金も安い。ロシア人の3~5割で働く。そして文句は一切言わない。ロシア人が嫌がる冬の外壁塗装などの屋外作業もいとわずに受注した。「北朝鮮労働者がニエット(ノー)と言ったところは見たことがないですね」

北朝鮮労働者は一生懸命働くため、仕事の飲み込みも早い。すぐにロシア人と遜色ない技術を身につけるという。

私もかつて、北朝鮮人労働者に縫製作業を受注した韓国業者から話を聞いたことがある。北朝鮮の労働者の質は高く、日本製とほとんど違わないほど質の高い作業を提供してくれたという。

実際、別の日に面会したロシア地方政府の幹部はこう言った。「彼らは来春には戻ってくるだろう」。とりあえず、労働需要が低くなる冬の間、国連制裁決議の行方を見極めるのだという。決議が緩和されれば労働ビザで、そうでなければ、短期の観光ビザや留学ビザで再ロシアにやってくるという線ですでに話がついているという。この幹部は「都市ごとにある北朝鮮労働者の拠点企業は完全に門を閉ざしていない。管理要員を残していて、いつでも事業を再開できる状態にしている」と語る。
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文・写真=牧野愛博

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