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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

写真=牧野愛博

12月22日、世界に散る北朝鮮の労働者が祖国へ向かい、一斉に大移動をした。正月休みの帰省ではない。国連安全保障理事会が制裁決議によって、「海外に派遣された北朝鮮労働者を本国に送還せよ」と定めた期限がこの日。海外からの送金によるミサイル開発の資金を断つためだ。22日の目前に、慌ただしいロシア極東の街、ウラジオストクで労働者たちを取材した。


米国務省の報告書によれば、北朝鮮は2018年上半期で世界に約9万人の労働者を送り込んでいた。なかでもロシアとの関係は最も古く、最大時で3万7000人の北朝鮮労働者が働いていたという。かつては伐採工が主流だったが、最近は建設工事やアパートの内装工事、水産加工業などに従事しているという。

12月20日のウラジオストク空港は、北朝鮮労働者で一杯だった。10月までは毎週月曜日と金曜日の週2便だったウラジオストク・平壌便は、11月から徐々に増発が始まった。私が訪れた週は22日の制裁期限を控えた駆け込み期間だったためか、月曜から金曜まで毎日2便が平壌に向けて飛び立っていた。

100人以上はいた労働者たちは空港内に入るとまず、重量計がある場所にぞろぞろと向かった。みな、5年間とも言われる派遣期間中にため込んだ日用雑貨やコメ、衣類などを残さず持って帰ろうとするからだ。高麗航空が無料としている預け入れ荷物は23キロまで。みな、当然のように重量がオーバーし、そのまま超過料金を支払う窓口に流れていく。

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50人ぐらいの列ができるなか、ロシア人の闇両替商が周囲をうろつく。北朝鮮の労働者と小声でやり取りすると、みなしわくちゃのロシア・ルーブル札を取り出し、1ドル札や5ドル札と交換していく。

かつては同じ海外派遣労働者だったが、今は脱北して地方都市に住む男性(57)によれば、建設工事で働いて得られる給料は月500~700ドルぐらい。8割が北朝鮮政府に搾取されるため、手元に残るカネはわずかしかない。それでも、ルーブル札がほとんど使えない北朝鮮に戻る前に、少しでもドルに変えようと、労働者たちは闇両替に走る。

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脱北者の男性は「両替できるのはまだ良い方ですよ。北朝鮮政府と契約した公営企業や農場で働く労働者の場合、給料はすべて素通りして北朝鮮政府に行ってしまう。ロシアにいる間、カネを見たことがないという労働者もいます」と語る。寄宿舎でわずかな食事だけを与えられて、ずっとただ働きさせられるのだという。

空港の別の場所では、旅券の束を持った男性が、「早くしろ」と他の労働者たちをせき立てていた。脱北者によれば、労働者は脱北の恐れがあるから旅券は持たせてもらえない。旅券携帯の権利があるのは、労働者たちのまとめ役である支配人か、同行している朝鮮労働党秘書、あるいは監視役である秘密警察の国家保衛省幹部のいずれかしかいない。

脱北者は「最近は、脱北が相次いでいて、支配人や党秘書も逃げる可能性がある。旅券の束を持っていたのは、たぶん国家保衛省の人間でしょう」と語った。

文・写真=牧野愛博

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