働かない人が増えている? データが語る「働く人」の新事実

エミ・ナカムラ UCLA教授

ノーベル経済学賞への登竜門とも言われる「ジョン・ベイツ・クラーク賞」を2019年に受賞したカリフォルニア大学バークレー校教授のエミ・ナカムラ。日系2世のナカムラは実証マクロ経済学を専門とし、伝統的な経済学では使われてこなかったミクロレベルのデータセットをもとに、これまで「常識」とされてきた仮定を検証し、具体的な裏付けや反証から新しい世界の見方を示している。

気候変動、格差・分断、グローバリゼーション、デジタル革命……。世界は劇的に変化し、そのスピードはますます加速している。予測不可能な時代、私たちはいかに世界を捉え、行動すべきなのか。2020年の始まりを目前に、2019年12月25日発売のForbes JAPAN(2020年2月号)の第二特集で、世界の知の巨人や気鋭の経済学者たちにインタビューを実施。今回は、ナカムラ教授に今日のデータで見る20年後、30年後の意外な世界の姿を聞いた。


19年11月の米雇用統計で失業率が3.5%と歴史的な低水準を記録したが、意外なのは就業率も低いままだということだ。過去半世紀という長期的なトレンドを追ってみると、米国では25歳以上55歳未満のプライムエイジと呼ばれる働き盛りの世代の男性の就業率がほぼずっと下がり続けている。1930年代の約90%から10%近く低下した。

このプライムエイジの男性の就業率の低下は、米国だけでなく日本やほかの先進国で幅広く見られる現象で、経済学でまだ解明されていない問題のひとつだ。このトレンドが続けば、20年後、30年後には今から5ポイント近く下がることになる。一世代前と比較すれば、とても大きな変化だ。

これまでマクロ経済学では、GDP(国内総生産)の成長率や金利政策に重点が置かれ、人口動態との関連についての研究は十分ではなかったと思う。例えば日本はGDPが伸び悩み、経済的なパフォーマンスは良くないように見えるが、世界的に見ても例を見ない超高齢化社会で、労働者も高齢化していることを考慮すれば、そこまで悪くないとも言える。経済において人口の変化はますます重要になり、経済学も無視できなくなっている。

なぜ、プライムエイジの男性の就業率は減り続けているのか。20世紀の経済学者ジョン・メイナード・ケインズが、21世紀初めには人々の労働時間が週15時間ほどに減少すると予言したのを思い出す人もいるだろう。

AIや仕事の自動化の影響だと思う人がいるかもしれない。産業革命の時代にも機械に仕事を奪われてしまうと人々は恐れていた。実際は、人々の賃金が上がった。いま起きているテクノロジーの変化も、産業革命と同じような変化になるのか? どれほど違うのか? これらは重要な視点だが、就業率の低下は、半世紀以上続いている流れなので、AIや仕事の自動化など最近のテクノロジーの変化だけでは説明できない。ほかにも一国の特殊な事情なら思いつくかもしれないが、世界中で起きているというのが面白い。文化的な事情ではなさそうだ。
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構成=成相通子

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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