最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介


理由として考えられてきたのは、女性の労働市場への参入だ。女性が働きに出て男性の仕事が奪われているのではないかとの見方だ。しかし、我々が米国の州ごとのデータを使って分析したところ、女性の就業率と男性の失業とは関連が低いことがわかった。女性の参入前から就業率低下のトレンドは続いており、女性の就業率が上がった州で特段男性の失職が増えたわけでもなかった。

近年、景気サイクルの回復が遅れていることが指摘されているが、これは女性の就業率の伸び悩みが大きな原因を占めていることがわかった。アメリカなど多くの国で1970年代に女性の就業率が急激に高まった。これが社会全体の就業率の上昇につながり、経済全体を底上げした。その後、女性の就業率は男性のレベルに近づくとともに伸び悩み、景気サイクルの回復もスローダウンする。女性の就業支援は、順調な景気回復の後押しにもなるのだ。

米国の隣のカナダでは女性の就業率は伸び続けている。国の政策の違いによるものだと考えられるが、この違いが将来的に大きな影響をもたらすだろう。日本でもアベノミクスで女性や高齢者の雇用推進をしているが、その成否が将来の経済成長の鍵を握る。

女性や高齢者の就業率に関係していると思われるのは働き方だ。長時間会社にいるような環境は女性が労働市場に参入する障壁になってきた。このような障壁は、テクノロジーの進歩によって解消されるかもしれない。フレキシブルな勤務時間やリモートワークによって、働ける人が増える。

働き方や仕事の中身という観点では、企業規模が大きくなっていることは影響があるかもしれない。巨大な企業が増え、中小零細企業が減っている。私の祖父の豆腐店のように家族経営の小さな商店は、大きな組織経営の企業に取って変わられた。大企業で働くのと自営業や小さな店で働くのは、同じ働くのでも大きく異なる経験だ。後者では1人の裁量が大きいが、大企業では個人の選択の幅は狭く「匿名の社員」のようになるかもしれない。非正規雇用が増えたことも仕事の質を変えただろう。

データを使った経済学はますます重要になる。それに合わせて、データの種類も重要になる。例えば、GDPを見ても平均の成長率しかわからないので、その中の不平等や格差はわからない。同様に賃金だけをみても仕事のほかの側面はわからない。より多くのデータを利用することで、より効果的な政策提言ができるようになるだろう。


えみ・なかむら◎カリフォルニア大学バークレー校教授。1980年生まれ。プリンストン大学卒業後、ハーバード大学経済学博士号取得。専門はマクロ経済学。2019年に「ジョン・ベイツ・クラーク賞」を受賞。アメリカ芸術科学アカデミーにも選出される。『アメリカン・エコノミック・レビュー』の共同編集者。

構成=成相通子 

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