ビジネス

2020.01.07

「他者の目」を大切にするチームづくり|SHOWROOM 前田裕二

SHOWROOMの代表取締役社長・前田裕二氏


次に立てた仮説は、道行く人が「おや?」と思うような「つっこみどころ」を何らか作れば、自分のコミュニケーション範囲まで人が入ってくる確率が上がるであろう、ということでした。

そこで看板にその日歌う予定のセットリストを書くことに決めました。「吉幾三」とか「村下孝蔵」といった、明らかに少年が歌っていたらおかしい曲を書いてみたんですね。そうしたところ、コミュニケーション範囲に来てくれるどころか、「なんで吉幾三なんて知ってるの?」と、お客さんから話しかけてくれる回数を飛躍的に増やすことに成功しました。

歌そのものではなく、コンテクストが感動をもたらす

ここで、また次のハードルが、立ちはだかります。通行人が立ち止まり、話しかける。ここまでは来ました。しかし、肝心な、「ギターケースにお金を入れてもらう」というハードルはなかなか超えられなかった。

そこで、浅く広く歌っていてもキリがないので、狭くても良いので深く誰かの心にぶっ刺さりする歌を歌わねば、ということで、ターゲットを絞ることにしました。例えば、マダムにターゲットを絞って、若かりし頃にはまったであろう、松田聖子さんの曲を歌っていたりもしました。この、どのオーディエンスに向けて歌っているのか、ということを都度明確に決めて歌う手法で、たくさん話しかけてもらったり、特にはリクエストをもらえたり、それなりに成果を上げることができました。しかしある日、リクエストに応えてすぐに歌ってしまっても、投げ銭してもらえるところまで到達しないことに気が付きました。

そこでまた、相手の立場に立って考えてみたんですね。プロや本人のクオリティレベルからほど遠い僕が歌う松田聖子自体に価値はない。聞き手にとって、自分ごとになっていない。もともとやっていた、リクエストに答えて、「その人のためだけに歌う」というのは、多分、方向性としてはいけている。しかし、もっと、only for you感を増すためにはどうしたら良いか。そこで思いついたのが、「リクエストを受けても絶対に歌わない」作戦。

どんな曲をリクエストされても知らないふりをして、「えっ、白い…なんですか?」とか言ってメモしながら、「白いパラソルですね。絶対覚えてくるんで、1週間後の同じ時間にもう一回ここに来てくれますか」と伝えるんです。歌や演奏のうまさで感動させるのではなくて、その人のためだけに一定の時間をかけて本気で努力をしたという、歌の裏側にあるコンテクストやストーリーで感動をもたらせないか。そう考えました。

そうすると、1週間後に実際に歌ったときには、もはや歌のうまさとかは聞いていないわけですね。「1週間、どうやって練習したんだろう」「私のためにどれくらい練習してきてくれたんだろう」と、僕の演奏を、自分事として考えてくれるようになります。そうやって感情移入のレベルを上げていきます。

こんな経験を経て、課題にぶつかった時、つまり相手が自分の思うように動いてくれなかった時には、相手の目になる癖がつきました。何が嫌で、何が嬉しいのか。徹底的に考え抜くようになりました。
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文=小縣拓馬 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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