ビジネス

2020.01.06

家具から部屋、そしてまちへ インドネシアで都市開発に挑む日本人起業家

カマルクホールディングス 和田直希


次に和田が取り組んだのは、家具のサブスクリプション(定額課金)サービスの「カマルク」。18年3月に、日本で初めて同サービスをリリースし、月額390円から利用できる。家具を「所有する」に対し、「利用する」という新しい価値観を提唱した。

「例えば、机ひとつ取っても、小学生向けの机は、中学生、高校生になったら使用しなくなり、廃棄となる。小学生向けの机メーカーであれば関係はそれで終わりです。カマルクであれば、高校生、大学生、社会人とライフスタイルの変化に合わせて、定額サービスの中で机の形を変えて使用し続けられる。ただ、カマルクとしては、ユーザーにずっと使い続けてもらうために、時代とともに変わり続ける必要がある。これはまちづくりにも影響しているブランドアイデンティティです」

『私の部屋』を素晴らしい空間にする

同社は18年5月、米ニューヨーク州でも、同サービスの展開を開始。クリエイティブ・ディレクターとして、世界的ファッション・プロデューサーであるニコラ・フォルミケッティを迎えた。レディ・ガガのクリエィティブ・ディレクター、ディーゼルのクリエイティブ・ディレクター、ユニクロのファッションディレクターなどを務めた世界的に知られる第一人者だ。

同5月には、ポップアップストアをオープン。ニューヨークSOHO地区に常設店舗もオープンさせ、NYタイムズなど現地メディアからも注目された。

「安いからではなく、ラグジュアリー感覚での利用が多い。家具を、というよりも、部屋を豊かにする目的の観葉植物をリプレイスしているイメージです。それは、家具作りから回収・再利用まで責任を持ち、永続的な関係を構築するためのサブスクリプションサービスとして、世界一地球に優しい家具メーカーを目指すという姿勢への評価もあるかもしれません。そして、僕らとしては、世界のユーザーにとって、人生の多くを過ごす『私の部屋』を素晴らしい空間にする。こうした考えも、今回のまちづくりにつながる大事なピースであると思っています」

さらに、その考えは、和田が2018年より代表取締役を務める、カスタマイズ家具の企画・開発・販売を行うユアニチャーにも現れている。「あなただけの家具を、簡単に」をコンセプトに、サイズ1センチメートル単位で、10種類以上の色をカスタムオーダーできるオンラインカスタマイズ家具のD2Cブランド「ユアニチャー」は、テクノロジーを活用した一点ものの家具をリーズナブルな価格で提供しているのが特徴。よりたくさんの人がインテリアを楽しめる世界を目指している。

不登校から失踪。ホームレスも経験した

和田の「まちづくり」への思いのきっかけは、最初の起業時にさかのぼる。小学校高学年、中学校、高校と馴染めずに不登校だった和田は15歳で失踪。3カ月間のホームレス時代などを経て、18歳でイベント会社を設立した。

「皿洗いのバイトもクビになり、個人事業主でないと生きていけないと(笑)。逃避の手段であり、積極的な理由で起業家になったわけではありませんでした」。その立ち上げ時に聞いていた曲の歌詞に大きな影響を受けたという。

「THA BLUE HERB『時代は変わる』という曲にあった『お前のための時代ならお前が変えろ』という歌詞に衝撃を受けました。これからどう生きていこうという時に『自分の思うようなまちをつくろう』と。40歳になる時に、ドロップアウトした自分でもフィットするまちをつくり、将来的に自分の子どもたちに住んでもらえるまちをつくりたいと思ったんです」
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文=山本智之

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