陰で価格戦争を煽った「ビジョナリー」投資家とは
孫正義という名前を聞いたことがあるだろうか。彼は日本一の資産家で、世界最大のベンチャーキャピタル「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の最高経営責任者(CEO)だ。ソフトバンクは「ソフトウェア・バンク」の略で、創業まもないディスラプターに惜しみなく多額を投資することで知られている。
遡ること2000年、孫は「中国のアマゾン」と呼ばれる「アリババ(阿里巴巴)」に2000万ドルを投じた。そのアリババはいまや、世界第8位の株式公開企業だ。
しかし2000年当時のアリババは、誰も聞いたことのない、従業員わずか十数人の非公開企業だった。孫がアリババに対して行った2000万ドルの投資は現在、1000億ドル以上の価値になっている! 孫は5000倍という驚異的な儲けを手にしたのだ。
ソフトバンクが再び注目を浴びたのは、2017年に90億ドルをウーバーに出資したときだ。とはいえ、孫が投資したのはウーバーだけではない。多くのライバル企業にも数十億ドル規模の金を、まるで飴か何かのように気前よく投資した。その結果、互いに料金を限界まで下げ合う「値下げ競争」が起きたのだ。
ようやく正気に戻ったソフトバンク
ご存知だと思うが、ソフトバンクはシェアオフィス企業「ウィーワーク(WeWork)」に数十億ドルを注ぎ込み、大失敗した。以前は大きな注目を集めていたウィーワークだが、今ではlaughingstock(もの笑いの種)となっている。
ウィーワークは2019年10月に赤字額を公表せざるを得なくなったが、その額はめまいがするほど膨大だった。同社の評価額は急減し、ソフトバンクは約50億ドルという巨額の損失を出している。
この大失敗以来、ソフトバンクやほかの投資家たちは、赤字企業への出資について以前よりもずっと慎重な姿勢を見せるようになった。実際、投資家たちは、利益を計上していないライドシェアリング企業に対して愛想をつかしている。
ニューヨークでシェア3位だったジュノは、2019年11月に経営破綻した。フードデリバリーのポストメイツは、メキシコなどのオフィスを閉鎖し、何百人もスタッフを解雇した。
「アジアのウーバー」と呼ばれたグラブはIPOを棚上げしたほか、ジャスト・イートとグラブハブは、経費削減に向けて合併を模索中だ。
こうして、北米でウーバーと真に競合できる相手はリフトだけとなった。リフトは2019年11月に初めて、全面的な料金値上げに踏み切っている。
新しい時代が始まった
底なしの資金を持っているかのように見えたたくさんのライバル企業は、それらの金を無駄にしていた。しかし、そうした時代はもう終わった。手短に言えば、ウーバーはようやく、好きなように値上げして黒字を目指せるようになった。
実際、調整後EBITDAマージンは、ここ数か月で8%から22%へとじわじわ上昇している。また、乗車1回当たりの料金は、ここ2年間の最高額へと跳ね上がった。
ウーバーは、2021年には黒字に転じると予想している。筆者の考えでは、同社の経営陣は予想を低く見積もっており、2020年後半には利益を上げるようになるだろう。
結論を言おう。2019年のウーバー株価は悲惨なものだった。しかし、同社はいま急激に回復しており、同社株はお買い得だ。利益が出始めれば、ウーバー株は、今後12か月でゆうに50%は上昇する可能性がある。