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2020.01.02

メルカリがJリーグに参入した理由──「テクノロジーの時代だからこそ、人間っぽさが大切になる」

(左)アカツキCEOの塩田元規氏 (右)メルカリ取締役会長の小泉文明氏


塩田:クラブチームを経営するというより、地域全体を見渡して、街のコミュニティとしてチーム運営を考えているんですね。

小泉:そう。だから、アントラーズは重要なアイコンの一つではあるんだけど、ひいてはサッカーに留まらず、より広い領域でライフスタイルを提案する会社になっていけばいいな、と。

塩田:面白そうですね! 僕もゲーミフィケーションの可能性を考えることはよくあって、たとえば通勤ラッシュの時間、ホームの階段を下りていくのと連動して、音やプロジェクションマッピングが作動したら、ちょっと楽しい気分になるんじゃないかなって、鉄道会社の方に話したこともあるけど、イマイチ共感してもらえなかった(笑)

小泉:でも、そういうのってすごく大切なんだよね。テクノロジーの進化って、合理化だけが進むようなイメージだけど、そういう世界はワクワクしない。AIによって人間の仕事に余裕ができて、週休3日、4日の生活が実現したとしても、「余暇はあるけど、僕の人生は幸せじゃなかった」と考える人が出てきて、究極的には自死が増えてしまうかもしれない。そうなるとマズいなって。そこに対して、エンタメができることはあるんじゃないかと思うんです。

塩田:余白があればあるほど、しっかりと自分の感動や「楽しい」っていう感情を味わえる機会がないと、逆に不安になるんですよね。

小泉:それに、スポーツって「やる楽しさ」と「観る楽しさ」があるけど、前者は一部の人しか楽しめない。でも「観る」ことは誰でもできるじゃないですか。だから、「誰かを応援する」って、人間にとって比較的簡単に幸福が手に入る手段なんじゃないかと思うんです。

塩田:ザッポス(米・アパレル系EC)のトニー・シェイCEOが「幸せのフレームワーク」として語っていたけど、人が幸せを感じることの一つに「自分が大いなるものと一体化すること」を挙げていて、それってまさにサッカーのサポーターにも言えるんじゃないかと思って。

小泉:そこにチームとして、いかにテクノロジーを活かしながら、人が入りやすい余白をつくっていけるかどうか、ということなんでしょうね。

マジメで臆病な僕らは、もっと「ハート」に従っていい

小泉:いまちょうどまさに、アントラーズはいろいろと実験中というか、組織を変えようとしていて、全プロジェクトをオープンにしたんですよ。サポーター向けの企画やスタジアム関連、コーポレートサイドも含めて全部見える化して、社員たちは「やりたいことなら、どのプロジェクトにも入っていい」ってことにしました。

塩田:へー。面白そう!

小泉:だから、経理のメンバーでもスタジアムのIT化プロジェクトに入っていい。そうやって、チャレンジできる場を与えたら、社員はどう変わるのか、と。ただ、みんなもともとアントラーズが好きで、ファンなんですよ。だから「自分がサポーターとしてスタジアムへ行ったら、こうであってほしい」という思いを絶対に持っている。それなら、自分がやりたいことベースでプロジェクトに参加できるような仕組みづくりをして、どんどん人を巻き込めるような会社設計にしていけたらいいな、って。

塩田:ちょっとホラクラシーっぽい組織なのかもしれませんね。これまでのマネジャーの多くは、本当に優秀かどうかではなく、情報の非対称性によって実権を握っていたけど、情報がオープンになればマネジャーの仕事って変わってきますよね。

小泉:それをサッカーチームでやってみるという、壮大なる実験。Slack(スラック)のチャンネルも本当にオープンだしね。そもそもサッカーって試合の中でどんどん戦術が変わって、情報共有しながらゴールに向かっていく競技だから、ホラクラシーっぽいところはあるんですよね。

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写真=Gettyimages
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文=大矢幸世 写真=小田駿一

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