「宇宙に経済学は通用する?」 在米学者、野村泰紀・成田悠輔のパラレル特別対談

経済学者の成田悠輔(イェール大学助教授、左)と物理学者の野村泰紀(カリフォルニア大学バークレー校教授、右)

気候変動、格差・分断、グローバリゼーション、デジタル革命……。世界は劇的に変化し、そのスピードはますます加速している。予測不可能な時代、私たちはいかに世界を捉え、行動すべきなのか。2020年の始まりを目前に、2019年12月25日発売のForbes JAPAN(2020年2月号)の第二特集では、世界の知の巨人や気鋭の経済学者たちにインタビューし、「来るべき未来」についてともに考えた。

今回は、物理学者の野村泰紀(カリフォルニア大学バークレー校教授)と経済学者の成田悠輔(イェール大学助教授)の特別対談記事を紹介する。2019年は、ブラックホールの撮影に史上初めて成功するなど物理学のブレークスルーが相次いだ一方で、イーロン・マスクのスペースX社が大型ロケット発射に成功するなど、民間企業の宇宙進出が進んだ年でもあった。一見接点がまったく無さそうに見える学問が、テクノロジーの進歩で今後、深く交わる可能性もある。

カリフォルニア大学バークレー校教授の野村泰紀が展開するのは「マルチバース論」。我々が唯一だと考えていた宇宙は、泡のように発生しては消える無数の宇宙のひとつに過ぎない。そんな衝撃的な宇宙の見方が少しずつ研究者のなかで広まっているという。マルチバース論で人々や社会の見方は変わるのか。データを使った政策やビジネスの設計を専門とする経済学者の成田悠輔が対談した。


成田悠輔(以下、成田):私が取り組んでいるテーマのひとつが社会制度設計です。既存の制度をいったん忘れ、ゼロベースでいちばんいい制度や市場をデザインする。

大昔は、民主主義下の意思集約や共産主義下の計画経済といった大問題にデータもコンピュータもないなかで、理論と想像力を駆使して取り組んでいましたが、近年ではデータとアルゴリズムを使い、小さく身近な問題解決に応用されています。例えばウェブサービスの設計や、治験薬と患者、難民と難民の受け入れ国のマッチングなど。

宇宙に人間が進出すれば、新しい社会設計が必要になるでしょう。時間や空間の意味や規模が違うなか、利子率や契約・所有権がどう変わるのか。宇宙と経済は実はすごく関係があると思います。

野村泰紀(以下、野村):そのような社会の設計は、確かに小さなものとは相性がよさそうですが、大きくなると難しそうです。共産主義やエスペラントもうまくいかなかった。小さいものから大きくなるにつれて、どこかでうまくいかない境目があるのかもしれません。

物理学も極小とか極大の世界はうまく扱えるのですが、中間は非常に難しい。宇宙が始まってすぐの0.1秒後の姿は、計算によって非常に正確にわかりますが、例えば手に持ったワイングラスを落としたときの破片の散らばりを正確に予測することは非常に困難です。

成田:社会や人間についての予測は小さくても大きくても難しいですね。一個人でも数億人の国でも行動を予測するのは難しい。大きい小さいを測るモノサシが間違っているのかもしれない。さらに、例えばGDP(国内総生産)を予測できたとしても、その予測値を知ってみんなが政治やビジネスを始めてしまえば、予測が意味をもたなくなってしまう。
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構成=成相通子 写真=Craig Lee

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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