【独占】市川海老蔵がテクノロジーに見出した可能性、なぜ伝統文化との融合を?


テクノロジーを使って、何か一緒にできないか

「初めてお会いしたとき、この人は“頭の回転が早くて、面白いな”と思ったんです「やっぱり起業家は自問自答して物事を考える時間も多いですし、なおかつ考えたことを具体的に実現しようとする欲が普通の人よりも強い。それは人間にとって、大きな力の源だと思うんです。どれだけ優秀であっても、ただ遊んでいるだけでは何も得られないわけですからね。そういう意味で彼は世の中に必要なものを自分の頭で考えて、きちんと形にしているので非常に面白い人だな、と思ったんです」

澤邊の第一印象について、市川海老蔵はこう振り返る。2人が出会ったのは、今から2年前。2017年に東京駅前の行幸通りで開催された、東京2020参画プログラム「文化オリンピアードナイト」のトークセッションに登壇したのがきっかけだという。

トークセッションを通じて、澤邊の考えに興味を持った市川海老蔵はイベント終了後、澤邊に声をかけ、電話番号を交換した。

「最初は電話番号を交換しただけで、電話はかかってこないんだろうなと思っていました」と語った澤邊だが、数日後、市川海老蔵から電話がかかってくる。

「御社のテクノロジーを使って、何か一緒にできないか」



この言葉がきっかけとなり、結果的に誕生したプロジェクトが『源氏物語』の「イマーシブ(没入型)プロジェクション」の制作・演出だった。

この「イマーシブ(没入型)プロジェクション」は、役者の身体に取り付けたセンサーが役者の動きをリアルタイムセンシングし、三次元情報を舞台上で高精度に取得。それをもとに、役者の動きに合わせた映像が生成されるというもの。また、CGレンダリングしながら投影するテクノロジーを使っているため、従来の映像のみのプロジェクションマッピングにはない没入感も実現できるようになっている。もちろん、歌舞伎では初の試みだ。

日本人が“日本の文化の良さ”を分からなくなっている

数年前から伝統文化と最先端のテクノロジーを掛け合わせた“新たな体験”の創出に積極的に取り組んでいる市川海老蔵だが、その背景にはどんな思いあるのか。そもそもテクノロジーについて、どのような考えを持っているのだろうか。

「正直言ってしまえば、僕は歌舞伎にテクノロジーを取り入れる必要はないと思っています。見て楽しいもの、感じて面白いもの、食べて美味しいものは分かるのですが、その奥にあるものを見る力をどんどん失い、日本の文化の良さに“気づきづらく”なってきている。そこに気付いてもらうための一助としてテクノロジーは効果的なのではないか、と思うんです。市川海老蔵がやっている歌舞伎は何か面白そうだな、見てみたいな、と思ってもらうことが今は大事だと思います」
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文=新國翔大 写真=小田駿一

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