装幀・デザインの現場から見える風景

画像=長井究衡

私はフリーランスのデザイナーで、主に本のデザインをすることを生業としている。肩書きでいうならば、装幀家、あるいは、ブックデザイナーということになる。

 私がこの言葉に出合ったのは、遡ること10数年前、いまはなきアメーバブックスという出版社で働いていたときのことだった。当時20代の私は、サイバーエージェントの子会社として設立されたこの会社にウェブ・デザイナーとして在籍し、日々目まぐるしく変わっていく環境のなかで業務に勤しんでいた。(前回の記事はこちら


出版社アメーバブックスは解散する──。

そう聞かされたのは、私が働き始めて4、5年ほどたった2007年ごろのことだった。一介のデザイナーに過ぎなかった私は、内情についてうかがい知ることはできなかったものの、ベンチャーである以上、そういったことはいつでも起こりうることだと心のどこかで覚悟はしていた。

30代で「所属先」がなくなるということ

ただ実際にそう告げられると、途方にくれた。20代の喧騒も終わり、30代を迎えていた私は、いつのまにか会社というものが社会への替えのきかない大きなパイプになっていた。いままで当たり前のように通っていた会社や所属先が、近い将来あっさりとなくなってしまうということ。肩書きが消滅するということ。それは予想以上に、ひとりの人間を動揺させるものだった。



さらにタイミングが悪くというか、私は本の装幀という分野に出会い、将来的にはこの道に進んでいこうと、ウェブ・デザイナーから装幀家へと大きく舵をきろうとしていた。出版社であるアメーバブックスに所属しながら学んだり経験したりすることは、まだまだ山ほどあるはずだった。

一方、本業であるはずだったウェブ・デザインへの熱は、Web2.0の浸透やネットの世界が徐々に整備されていくのと反比例するかのように、次第に冷めていっていた。

いま振り返ると、そのとき私が迷っていた道は、次の3つだったと思う。

1.引き続きウェブ・デザイナーとして母体のサイバーエージェントやグループ会社で仕事をさせてもらえないか相談する
2.同業他社、もしくは装幀を学べるデザイン事務所等に転職する
3.装幀をメインとするフリーランスとして独立する道を探る

文・画像=長井究衡

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