たとえ従来は管轄外とされてきたとしても、中央銀行は、所得格差や気候変動といった社会の大問題を重要な関心事とすることが可能だし、そうすべきだ──そう主張するのは、かつてアイルランド中央銀行の総裁を務めたパトリック・ホノハンだ。
ホノハンは、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)が10月に発表した調査結果報告書の中で、この主張を展開している。
「過去10年の間、各国の中央銀行はその金融政策において、より幅広い手段を用いるようになっている。こうした政策の策定および実施において、倫理、分配、環境に関する懸念にもっと留意するべきだという要求に対し、中央銀行は抵抗すべきだろうか?」とホノハンは問いかけた。
「中央銀行の幹部には、このような提案に二の足を踏む者が多いだろう。自らの独立性が損なわれることによる不利益や、中核業務への取り組みがおろそかになる危険性を恐れてのことだ。これらは重要な懸念であり、そうした懸念を抱くのももっともなことだ」と、ホノハンは続ける。
それでもホノハンは、非常に重要なこうした社会問題を無視し続ければ、中央銀行が政治的攻撃のターゲットになるリスクは、下がるどころかかえって上昇すると主張する。中央銀行が世の中の流れに無関心だという印象が、さらに高まるからだ。
「明示されているか、暗黙の了解かを問わず、中央銀行の第2の任務は、気候変動や格差といった社会的な大問題に対して関心を持つこと、そして、金融政策という第1の目的を見失わない範囲で、こうした諸問題にかなりの影響を及ぼすことではないだろうか」とホノハンは自説を展開した。
「これらの問題に対する社会の対応と比較すれば、中央銀行の姿勢は立ち遅れがあり、今後はさまざまな面で価値ある貢献ができる可能性がある。中央銀行は自らの独立性が損なわれることを恐れているのかもしれないが、こうした領域において一般市民が当然抱くであろう期待を無視することによって、独立性への脅威はさらに拡大するおそれがある」