化学の本質、経営の本質とは。花王社長の胸に今も残る、40年前の一言

花王代表取締役社長執行役員 澤田道隆


「壁紙の水性塗料の講習会で、いいアイデアに出会いました。その業界では一般的な技術でしたが、私たちだけでは気づけなかった。研究開発は、あきらめずに続けること、異業種の技術を見ることが大事です」

次々と革新的な商品を世に送り出してきた花王だが、背景には製品分野の幅広さがある。洗剤、スキンケア、食品、産業用資材……。基礎研究の段階では何に応用できるのかわからなくても、必ずどこかで用途が見つかる。その懐の深さがあるからこそ、粘り強く研究を続けられる。

その強みが発揮されたのが、18年11月に発表した「ファインファイバー技術」だろう。これは極細繊維のポリマー溶液を肌に直接吹きつけ、肌の上に極薄膜をつくる技術。化粧品や医療での応用が期待されているが、もともとおむつや生理用品の不織布研究から生まれたものだった。

「極細繊維の研究を始めたのが04年ごろ。一時は担当が1人になりながらも粘り強く研究を続けて、まったく違う分野で花開き、苦節14年で商品化に漕ぎつけた。花王らしいイノベーションだと思います」

経営基盤の強化も、段階的に進めている。19年9月には、新たにESG経営に舵を切ることを発表した。

「プラスチックは強くて軽くて安くて形にしやすい便利な素材ですが、いまプラごみは社会問題。技術革新には、表の部分があれば裏の部分もある。最初から裏の部分も考慮に入れて研究開発することが、持続的に成長するための基盤になる」

本質を追求する旅に終わりはない。丸田の本は若手時代に2回、経営者になってから5回読んだ。いまのほうが読む回数は増えている。8回目に手に取る日も、そう遠くない。


さわだ・みちたか◎1955年生まれ。81年、大阪大学大学院工学研究科を修了後、花王石鹸(現・花王)入社。以後、研究開発部門に一貫して携わり、素材開発研究所室長、サニタリー研究所長、ヒューマンヘルスケア研究センター長などを歴任。2012年6月より現職。

文=村上敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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