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「全米球場跡地巡り」に感じるロマン


そんなセントルイスだが、実は、全米のどの都市よりも一番遅れていたことがある。それは人種差別の撤廃だ。セントルイスは、中西部に位置するが、1966年にブレーブスがアトランタに移転するまで、メジャーリーグ球団の本拠地の中で最も南部に位置し、人種差別が根強く残っていた。遠征球団がセントルイスで定宿としていたチェイス・ホテルは、黒人選手の宿泊を認めないホテルの一つだった。そのため、黒人選手の多くがセントルイスに遠征するのを嫌がった。カーディナルズの選手の中には、ジャッキー・ロビンソンのメジャー・デビューを快く思わず、ドジャース戦をボイコットするようチームメイトに働きかけた選手がいたとも言われている。

1953年にバドワイザーのオーナー、アンハウザー・ブッシュがカーディナルズを買収し、「黒人を排除して、どうして野球が偉大なアメリカの国技だと言えるのか」として、黒人選手を積極的に採用するまで、カーディナルズは、白人だけで構成されていた。

今では考えられないが、メジャーリーグでは、かつて白人客と黒人客を分離するために、黒人専用席を設けていた球場があった。他の球場では徐々に黒人専用席が撤廃され始めたが、最後の最後まで残っていたのは、1871年にアメリカでプロ野球が開始されて以来、1966年までの間に、プロ野球リーグの本拠地としては最も数多くの公式戦が行われ、カーディナルズとブラウンズが33年間にわたり共有していたスポーツマンズ・パークだ。この球場では、黒人客は外野のブリーチャー席とパビリオン席のチケットしか購入することができなかったが、1944年になってようやく内野の客席のチケットも買えるようになり、これによりメジャーリーグの人種別座席制度がすべて廃止された。

スポーツマンズ・パークの跡地に行ってみた。ダウンタウンの西側、メトロ・トランジットのグランド駅の周辺には、19世紀からセントルイスに存在したメジャー・リーグとニグロ・リーグの球団の本拠地球場が集中しており、各球場跡地には、アメリカ野球学会によって記念碑が設置されている。これほどまで球場跡地が集中している場所は、全米中探しても他にないだろう。

スポーツマンズ・パークの跡地にできたスポーツ施設の壁には、ここにかつてスポーツマンズ・パークがあったことを示すプレートが設置されている。ここでワールド・シリーズ10回、オールスターゲーム3回開催されたこと、最後の本塁打を記録したのはウィリー・メイズであることなどが紹介されている。

他にも、この球場では、1951年には、オーナーのビル・ベックが観客に「YES」か「NO」のプラカードで采配を委ねたり、3フィート7インチ(1.02メートル)の小人を代打で使って話題になった。1931年にベーブ・ルースが通算600本塁打、1954年にスタン・ミュージアルが一日5本塁打、ハンク・アーロンがメジャー初本塁打をそれぞれ記録しているが、この球場にもベーブ・ルースにまつわるエピソードが残っている。

1926年にヤンキースとカーディナルズとの間で行われたワールド・シリーズで、ルースは、史上初となるシリーズ4本塁打を記録したが、うちの3本は、10月6日にスポーツマンズ・パークで行われた第4戦で記録したものだ。ルースの打球は、センター後方の観覧席に飛び込み、そこで大きくバウンドした後、ボールは塀を飛び越え、球場に背後を走るグランド通りを飛び出し1ブロック先のYMCAビルの前で止まった。飛距離600フィート(180メートル)という超人的な大本塁打だったという。ルースは、1928年のワールド・シリーズの第4戦でもこの球場で本塁打を3本打っている。


ベーブ・ルースの打球が飛んだYMCAビル(著者撮影)

球場が取り壊されて50年以上経過するが、このYMCAは、ベーブ・ルースの巨大本塁打だけでなく、白人客と隔離された座席で観戦していた黒人客の姿も知っているはずだ。こんなところに、アメリカの野球史を語る上で絶対に避けることができない人種差別を克明に覚えている歴史の生き証人がいたのだ。


今回でこのコラムは最後になりました。平凡なサラリーマン生活を送る自分にコラムなんか書けるのか不安でしたが、なんとか1年半、連載を続けることができました。これまでこのコラムをお読みいただいたフォーブス読者の皆様、ありがとうございました。

かなりマニアックなコラムではありますが、野球場跡地に秘める壮大なロマンを少しでもお伝えすることができていれば幸いです。全米にはこのコラムで紹介しきれなかった球場跡地がまだまだあります。また機会がありましたら、どこかで皆様にご紹介したいと思います。

連載:「全米球場跡地巡り」に感じるロマン
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文=香里幸広

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