「技術は多様な事業を貫き、力を与えるものだ」
ソニーの吉田憲一郎社長は2019年9月、研究開発(R&D)イベントでこのように述べた。それを支えるのが、R&Dセンターを統括する勝本徹専務だ。18年4月にR&D担当に就任して以来、ソフトウェアを中心としたシステム開発部門と、材料・デバイス開発部門といった別々の研究開発部門を一体化したR&Dセンターを発足させるなど、R&Dの新体制を築いてきた。
「財務基盤が強化され、5〜10年先の技術の仕込みができるようになった」と勝本が強調するように、ソニーは次の一手を打ち始めた。
テレビやスマートフォンなどのエレクトロニクス(エレキ)部門の不振により、09〜15年度に6度の最終赤字を記録するなど厳しい業績が続いていた同社だが、17年度には20年ぶりに過去最高益を更新。翌18年度にも営業利益8942億円と2期連続で過去最高益となった。
ゲーム、音楽、映画、エレクトロニクス、半導体、金融を事業領域に持ち、かつてのエレキを中心とした成熟企業から、多様な事業ポートフォリオを持つ高収益成長企業へと変貌を遂げたのだ。
新生ソニーが打ち出す、さらなる成長を目指す技術を核にした新戦略が、「技術のコーポレート全体での活用」だ。
「シナジー(相乗効果)については経営面では進めてきましたが、技術面では発揮が難しかった。ただ、デジタル化の流れが後押ししています。映画や音楽、ゲームのコンテンツがデジタルとなり、金融データもデジタル化。これまで培ってきたエレキ事業のデジタル技術が、ソニーの手がけるさまざまな事業分野でも展開できるようになりました」(勝本)
R&Dセンターではかねてから、エンタテインメント部門と金融部門の連携を強化しており、すでに事業部門間の協力体制も整ってきているという。
「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)のアンソニー・ヴィンシクエラ会長兼CEOや、ソニー・ミュージックエンタテインメントのロブ・ストリンガーCEOが、『新しい技術はないか』『使える技術はないか』と積極的に話しかけてくる。関係構築は想像以上に進んでいます」
デジタル技術が活用された例として勝本があげるのが、SPEが手がけた映画「メン・イン・ブラック(MIB):インターナショナル」のCM撮影の一件だ。あらかじめ撮影した人や背景を立体的に復元できる最新映像技術を用いて、従来では再度セットを組み直す必要があった撮影を、短期間に高品質な映像で実現させた。