問題は、野心的といえる目標をどうやって実現していくかだろう。13年度の東京ガスのCO2排出量は3736万トン。これを基準に、長期経営ビジョンでは、第一段階として30年に1000万トンを削減するという具体的な数値目標も盛り込んだ。
CO2ネット・ゼロを実現する上で鍵を握るのは、技術開発だ。東京ガスはメーカーではない。しかし、メーカーや大学と連携して、水素の製造や、水素とCO2を合成してメタンをつくるメタネーション技術、CO2の分離回収技術など、脱炭素を推進するコア技術の開発に積極的に投資をしている。
「ビハインド・ザ・メーター」という、電気やガスを使う需要サイドでのイノベーションにも熱心だ。内田は技術開発の方向性をこう解説する。
「電力会社の脱炭素の取り組みは、発電所の脱石油、脱石炭化や、再生可能エネルギーの活用が中心です。私たちもそれはやりますよ。しかし、分散化の流れの中で、お客様先でCO2を出さない取り組みもやる。両建てで進めるところはほかにあまりないのではないか」
ビハインド・ザ・メーターの例としては、東京ガスが太陽光パネルや蓄電池を顧客先に設置して、顧客が使わなかった電気を系統に流し、他の顧客に販売する分散型のシステムが考えられる。このシステムの実用化に向かって、現在、蓄電池や大量の取引を記録できるブロックチェーンの活用や研究にも力を入れている。
脱炭素は既存事業を毀損しない
技術革新に積極的な姿勢は今回の選出理由(オープンイノベーションランキング1位)でも裏づけられている。ただ、気になるのはカニバリゼーションだ。脱炭素化の推進が既存事業を毀損して、収益が悪化する恐れはないのか。内田は「IR説明会でも、何度も同じことを聞かれたが、それは違う」ときっぱり否定する。
「ビハインド・ザ・メーターでは、“プロシューマー(コンシューマーとプロデューサーを組み合わせた造語)”になったお客様の手助けをして、我々が利益の一部を頂戴する新しいビジネスが成り立ちます。見た目にガスの使用量が減ることはあっても、全体として利益を出せばいい」
いままでと違うビジネスモデルをつくっていくと口で言うのは簡単だ。社会のインフラを支える企業は、その使命上、決められたことを滞りなく行うことがまず求められる。保守的になりがちな環境で、本当に新しいビジネスに挑戦できるのか。そう問うと、内田は「社員には、ガスメーターが回ってナンボという意識を変えてもらう」と答えた。
「例えば、いままでパイプラインの建設維持管理をしていた部門は、スマートメーターを活用することで新しい事業ができるかもしれません。LNGを調達する部門も、単に安く調達するだけでなく、トレーディングをやってもいい。それぞれの部署で、自分たちの持っているもので何ができるか考えてほしいと言っています」