ビジネス

2020.01.02

古いやり方は残さない。危機感から生まれたアステラス製薬の「芋づる式創薬加速モデル」とは

安川健司 アステラス製薬 代表取締役社長CEO

Forbes JAPANは、イノベーティブな企業こそ未来をつくる“GREAT COMPANY”だと考え、「日本で最もイノベーティブな企業」をまったく新しい手法で選出した。イノベーション効率ランキングで3位になったのは、アステラス製薬。同社では、創薬の効率を引き上げるために「三角形」のビジネスモデルが考案された。その組み合わせは、次世代に求められる新薬を創出する無限の可能性を生む。


取材が始まって数分が経つと、アステラス製薬社長の安川健司はおもむろに立ち上がり、ホワイトボードに三角形を描き始めた。3辺の角にはそれぞれ黒の文字で、「バイオロジー」「モダリティ/テクノロジー」「疾患」と書き込まれている。

「この三角形がちゃんとできれば、ここからいくつもの薬が生まれてくる。私はこれを“芋づる式”と呼んでいます」

ホワイトボードに描かれた三角形。これは、同社が採用している創薬のビジネスモデル「Focus Area(フォーカスエリア)」の図解である。安川が経営戦略担当役員だった2015年に考案したものだ。持続的かつ効率的に新薬を生み出すための「勝ちパターン」である。

国内の製薬業界で、第2位の売上高を誇るアステラス製薬。がんや泌尿器分野に強みを持ち、近年は再生医療や遺伝子治療へと事業領域を広げている。変革の立役者が、18年に社長に就いた安川だ。彼を突き動かしたのは、「イノベーションを起こせる会社でなければ生き残れない」という強烈な危機感だった。

変革の狼煙が上がったのは11年4月のことだ。

「うちの会社のR&Dは、生産効率が悪すぎる。このままでは、会社全体が縮小再生産に向かってしまいます」

執行部の面々を前に、こう直訴する安川の姿があった。当時の肩書は製品戦略部長。入社当初から「日本一の開発マンになる」との野心を抱いていた安川は、会社にとって必要とあれば、相手が誰であろうが物怖じせずに物申す存在だった。

「古いやり方を続ける人たちの中にいると、率直に『なんで?』と思う。非効率なことが、どうにも我慢できないんですよ」

ここで言う「古いやり方」とは、創薬のビジネスモデルのことだ。当時のアステラス製薬は、泌尿器や移植など、得意領域に経営資源を集中させて効率を上げる「グローバル・カテゴリー・リーダー(GCL)」戦略を掲げていた。

「投資家には、とても受けがよかったんです。でも、副作用として、研究者の発想の自由をどんどん奪ってしまった」
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文=瀬戸久美子 写真=宇佐美雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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