・処方薬の価格
米政府は2017年の医療支出の12%を処方薬に使っており、米国の医薬品関連支出は世界で最下位10位内に入っている。前述の通り、国民1人当たりの医療支出が世界一であるにもかかわらず、医薬品への支出は世界でも最低水準にあるのだ。
米疾病対策センター(CDC)によると、米国の死因の第2位はがんだ。がん治療に使用される代表的な医薬品のひとつであるコメトリック(カボザンチニブ)のカプセル112錠(1日当たり140mgを1錠)の平均卸価格は1万7746.61ドル(約194万円)。コメトリックを製造するエクセリクシスの2019年第1四半期の総売上高は、前年同期比453万ドル(約4億9600万円)増の2億1550万ドル(約236億円)だった。同社は2018年、コメトリックだけで8億3580万ドル(約914億円)を売り上げた。
製薬企業以外を見てみると、2017年はエクスプレス・スクリプツなどの薬剤給付管理会社(PBM)が売上高で大手製薬会社を上回っていた。2019年のフォーチュン500リストのトップ25社のうち6社がPBMで、7位にマッケソン、8位にCVSヘルス、10位にアメリソース・バーゲンが入った。
・医療保険料
2017年に米国の従業員が支払った医療費は、4500〜8300ドル(約49万〜91万円)だった。2019年のフォーチュン500リストでは、6位のユナイテッドヘルス・グループを含む医療保険会社2社が上位25位内に入っている。25社に製薬会社は一社も含まれず、最上位はジョンソン・エンド・ジョンソンの37位だった。
メンタルヘルスの問題を抱える米国民の半数以上が治療を受けておらず、その最大の要因は医療費にあるとされている。米国では単に、医療保険やお金がなければ治療を受けられないのだ。
・医師不足
米国では人口1000人当たり2.6人の医師がいるが、これは世界的に見るとワースト10に入る少なさだ。一方で看護師の数は1000人当たり11.7人で、こちらは世界のトップ10に入る。しかし、米国史上最大の世代であるベビーブーマーの最下層が今50代半ばいることを考えると、今後20年間に医療ケアが必要となる国民の数は前代未聞の規模に達するだろう。
米国の医師不足は、教育費の増大が要因となっている可能性がある。2016年の医大卒業者の74%近くが学生ローンを抱えていた。学生ローンによる負債額の中央値は、2000年の12万5372ドル(約1370万円)から2016年には19万ドル(約2080万円)に増えている。医学生が負担するローンは、心の健康と学業の妨げになり、学生がより高収入が望める職業へと流れる要因となるかもしれない。
米国民の生活の質を改善するには、高い薬価と保険料、オピオイド問題、自殺の増加、医師不足といった問題の全てを考慮し、適切な行動を起こす必要がある。