近藤麻理恵のことは誰もが知っている。彼女の書籍は国際的なベストセラーで、これまでに150万冊以上を売り上げている。近藤はファンに愛されるネットフリックスシリーズのスターで、2015年には米誌タイムにより「最も影響力のある100人」のランキングにさえ選ばれた。
彼女の特徴的な片付け法「こんまりメソッド」により、多くの米国人が生活を整理し片付けを行ったのは間違いない。しかし近藤の真の才能は、物に対して持つ感情的な関係と向き合い、その中で喜びと心の平和を見つけるよう諭してくれるところだ。
「ときめく」ものだけを残すように、とこんまりは語る。私がときめくものにあなたもときめくとは限らない。片付けをしているだけでも、実はその過程で自分について少しだけ学びを深めている。
私は先日、近藤が自身のウェブサイトでネットショップ「The Shop at KonMari(ザ・ショプ・アット・コンマリ)」を立ち上げたことを知り衝撃を受けた。物は少ないほど良いと説く女王の近藤が、物を販売しているというのは本当だろうか?
私は初め興味を持ち、ノートパソコンを手にベッドに座ったが、驚きのあまり笑ってしまった。
近藤のネットショップでは275ドル(約3万円)の真ちゅう製ツールホルダーや206ドル(約2万3000円)の革のルームシューズ、108ドル(約1万2000円)のボディーブラシなどが販売されていた。また、手彫りの指圧スティックさえあり、比較的手が届きやすい12ドル(約1300円)だった。
私は怒りはしなかったが、近藤に落胆した。
近藤にはもちろん、すぐに容赦ない反発が寄せられた。しかし私は、彼女が自身の東洋哲学に資本主義の要素を散りばめたことを非難したいわけではない。彼女は事業を経営しているわけで、それを批判できる人はいないだろう。
近藤は「私が毎日の生活で使っているものについて多くの人から尋ねられました」とツイートし、「このネットショップは、私が気に入っているものやときめくアイテムを集めたものです」と続けた。多くの人は即座に、近藤のネットショップが彼女の哲学とまさに正反対であることを指摘した。
これはもっともなことだ。近藤の書籍と教えの核心は、自己発見を実現する民主化されたアプローチだからだ。大事なのは物ではなく喜びなのだ。
私が気に入らないのは彼女の偽善行為でさえなく、そのビジネス戦略だ。
近藤は根本から間違っている。自身のブランドが開拓したコミュニティーを尊重する代わり、彼女は米女優グウィネス・パルトローのライフスタイルブランド「Goop(グープ)」の日本版を作り上げ、その過程でオーディエンスの大部分が離れてしまった。これは、商品の市場開拓手法として間違っている。