ビジネス

2020.01.16

「組織にプラスだ」と思われて、初めて人は動き出す

水留浩一 スシローグローバルホールディングス代表取締役社長CEO


組織にプラスになることをやれば、人は動き始める。その気づきは、スシローでも発揮された。スシローを所有していた英系のファンドは、15年にプロ経営者として水留を招いた。投資資金を少しでも早く回収したいファンドは、人件費を絞り、原価率を落とす方針を打ち出した。しかし、水留は自分を招いたファンドと喧嘩することも辞さなかった。

「お店のクオリティを考えると、人を減らすどころか増やすべき。原価率は2%減らすだけでも約30億円の利益が出ますが、スシローの魅力がなくなるし、現場も一番やってはいけないことだと認識していた。そうではないやり方で利益を増やすことを目 指したので、社員にも思いは伝わったのではないかと思います」

とはいえ、ファンドに損をさせたのでは意味がない。水留は成長を加速させて、17年には東証一部に上場。「ファンドにはハッピーに出て行ってもらいました」と胸を張る。

上場後、株主構成が大きく変わり、筆頭株主になった神明HD傘下の元気寿司と経営統合する計画が持ち上がった。しかし、19年6月、統合計画は中止に。要因の一つが、海外展開の路線の違いだ。

「社長就任以来、私は『海外展開を進める』と言って、18年には台湾1号店を出しました。元気寿司さんはすでにFCで海外に展開していたため、私たちが出ていくと相手先との関係がややこしくなる。統合中止で、自由に海外展開ができます」

韓国・台湾に加え、19年8月にシンガポール、香港にも出店した。

「いずれはJALの就航都市すべてに店を出すのが夢」という。

海外展開にはグローバル人材が欠かせない。国内だけを見てきた社員たちには、大きな挑戦になる。

「海外はどうだ? おもしろいぞ」

撮影前の雑談で、水留はエリア課長にこう声をかけた。課長はうまくかわして即答を避けていた。これからどうやって社員を焚きつけていくのか。水留の手腕に注目だ。


みずとめ・こういち◎1968年生まれ。東京大学理学部卒業後、電通入社。その後、経営コンサルタントに転じ、ローランド・ベルガー(日本法人)では2005年に代表取締役就任。企業再生支援機構、日本航空、ワールドの役員を経て15年より現職。

文=村上 敬 写真=苅部 太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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